味覚は、動物の摂食行動を制御する化学感覚である。従って、畜産動物の味覚受容機構の解明は、畜産動物の効率的な飼養管理技術、並びに新規飼料材料の開発につながる。畜産動物の飼養において食品残渣などを利用したエコフィードの利用が推進されており、多くの植物由来の飼料材料に含まれる苦味成分に対する畜産動物の反応性を検討する必要がある。 本研究では、畜産動物の一種であるウズラの苦味受容機構に着目した。浦田ら(1992)は、ウズラが塩酸キニーネと呼ばれる苦味成分に忌避を示さないことを報告していた。本研究においても同様に、ウズラは複数の苦味成分に対して忌避を示さず、苦味を感じていない可能性が考えられた。組織学的な解析から、味覚シグナル伝達に関わるGタンパク質であるガストデューシンを発現する味蕾がウズラの口腔に存在することを確認した。ウズラのゲノムにはT2R1、T2R2、並びにT2R7の3つの苦味受容体が存在するが、口腔組織には主にT2R7が発現していることを定量PCRにより明らかにした。ウズラのT2R7のアミノ酸配列と苦味に敏感なニワトリのT2R7のアミノ酸配列を比較したところ、苦味成分と相互作用することが知られるアミノ酸残基の多くが変異していることが明らかになった。そこで、現在培養細胞を用いた味覚受容体再構築系を用いて、ウズラのT2R7の苦味成分に対する応答性を検討している。 ウズラは、日本で家畜化された動物であり、小型であることから飼育管理が容易なことや世代交代の早さなど畜産動物として優れた性質を有している。もしウズラが苦味を感じないことを証明することができれば、苦味を有する植物由来の食品残渣 (ホップ、コーヒー、茶葉の搾りかすなど)を積極的に利用することができるため、環境負荷の少ない畜産動物としての強みを新たに見出すことができると考えられる。
|