本研究は母鶏への有用細菌の経口投与によって母鶏卵管粘膜とヒナ腸管粘膜のバリア機能が強化されるか検証し、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。R3年度には産卵鶏への乳酸菌の経口投与が卵管粘膜のバリア機能を向上させる可能性を示し、R4年度には卵管上皮細胞の培養システムを用いてこのメカニズムを解明した。 最終年度のR5年度は母鶏への乳酸菌給与によりヒナの細菌叢を制御可能かどうか検証することを目的にしていたが、ここまでの研究で母鶏への乳酸菌給与が卵管粘膜の細菌叢を変化させるものの、投与した細菌自体の卵管への移行は認められず、安定した制御が出来なかった。そこで、R5年度には方針を変更し、実際の母鶏の腸内から卵管、そして受精卵までの細菌の共有状況(移行の可能性)を分析し、続いて母鶏よりも細菌制御が容易な受精卵への細菌感作を行い、その後のヒナの増体量を計測した。 その結果、母鶏の腸管(回腸と盲腸)からは160種類、卵管粘膜(膣部と膨大部)からは61種類の細菌種が検出され、腸と卵管の共通細菌は35種類であった。一方で受精卵からは156種類(卵殻と卵白、卵黄)検出された。腸と卵管で共通している35種類はすべて受精卵からも検出されたほか、合計で115種類(受精卵全体で検出された菌種の74%)が母鶏の腸と卵管から移行する可能性が示された。続いて、この中から1種類の乳酸菌を単離して、受精卵への細菌感作がヒナの成長性に及ぼす影響を追究した。その結果、孵卵開始前に卵殻に菌液を噴霧した群は、噴霧しなかった対象群や孵化後に乳酸菌を経口感作させた群と比べて、孵化後2週齢時点での増体量は6~9%増加した。以上のことから、母鶏から受精卵を介したヒナへの細菌移行を行う場合に選択すべき細菌種が明らかになった。また、この中の細菌を受精卵に感作させることでヒナの成長性が促進する可能性が示された。
|