本課題では,卵巣機能低下原因として近年注目されている『卵巣線維化』が起こるメカニズムを明らかとするため,加齢マウスと肥満マウスの比較解析を行った.特に,加齢卵巣・肥満卵巣に共通して起こる卵巣間質組織の脂肪細胞化に焦点を当て,脂肪細胞化と線維化の関係性の究明に挑戦した.脂肪細胞は循環器から脂肪酸を取り込む,あるいは自身で脂肪酸を合成することで,細胞内に脂肪滴を蓄積している.そこで,卵巣間質において脂肪酸の供給あるいは産生が問題であるか検証するため,ELISA法による血中脂肪酸濃度を測定したところ,肥満マウスでは血中脂肪酸濃度が高値であった一方で,老化モデルマウスでは大きな変動が認められなかった.脂質産生においても,予想外に老化マウスでは脂質合成系が活性化していなかった.したがって,老化に伴う脂肪細胞化は,脂肪酸の供給や産生に依存していないと言える.次に内部蓄積ではなく,その利用が阻害されることで蓄積過多になると仮設立て,フラックスアナライザーを用いた代謝解析を行ったところ,加齢に伴った卵巣間質の脂質代謝能が著しく低下することが明らかとなった.また免疫学的手法により,卵巣内部に蓄積する免疫細胞や酸化ストレスを検出したところ,卵巣間質への脂質蓄積に伴った卵巣局所の炎症が誘起されていることも見出した.あらゆる臓器において炎症が線維化のキーとなっていることから,細胞内の脂質代謝能の低下に伴う卵巣間質の脂肪細胞化が卵巣線維化を誘導している可能性が示唆された.以上の基礎研究成果を基盤として見出した原因を改善するため,脂質代謝を司るミトコンドリア機能改善剤や脂質代謝促進剤を老化モデルマウスに投与したところ,卵巣への脂質蓄積のみならず,卵巣線維化の解消,そして性周期の改善が認められた.以上のように,肥満や老化に伴う卵巣機能低下の改善法の構築に成功した.
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