研究課題/領域番号 |
21K14964
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
樋口 智香 九州大学, 医学研究院, 学術研究員 (00866379)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵母細胞 / ミトコンドリア / mtDNA / 卵形成過程 / 始原生殖細胞 / 人工多能性幹細胞 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究では、卵細胞系列における変異型mtDNAの排除時期を明らかにすることを目的とし、変異型mtDNAをもつ人工多能性幹(iPS)細胞からの卵細胞分化誘導系の構築を行なった。 (1)レポーターiPS細胞(Stella-tdTomato)の作製:始原生殖細胞(PGC)様細胞、及び卵母細胞時期の細胞単離・採取のために、これらの時期特異的に発現するStellaの蛍光レポーター(Stella-tdTomato)iPS細胞を作製した。これまでに樹立していた変異型mtDNAを有するiPS細胞株にStellaの蛍光レポーターのノックイン細胞株を複数作製した。さらに定量的PCR解析により作製したiPS細胞株は60~80%の変異型mtDNAを有していることを明らかにした。同時に、対照区として野生型mtDNAのみを持つiPS細胞株についても研究を実施した。 (2)卵細胞分化誘導系の構築:上記で作製したiPS細胞を起点に、エピブラスト様細胞、PGC様細胞への分化誘導を行った。分化誘導6日後のFACS解析により、Stella-tdTomato陽性細胞がPGC細胞表面マーカーであるCD61両陽性であることを確認した。さらに遺伝子発現解析の結果、PGC時期に発現する遺伝子を発現していることを確認した。続いて、PGC様細胞と胎仔卵巣体細胞との凝集培養により、PGC様細胞を卵細胞へと分化誘導した。その結果、卵細胞時期においてStella-tdTomatoの蛍光が確認され、また変異型mtDNAを持つ卵細胞を80-100個得ることができた。これらから、変異型mtDNAをもつiPS細胞からの卵細胞分化誘導系を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、変異型mtDNAをもつiPS細胞からの卵細胞分化誘導系を構築することができた。計画段階では変異型mtDNAの含有率が多くなれば、細胞内の呼吸機能が低下することで卵細胞分化誘導系の構築が困難となることが予想されていた。事実、これまでに試行したiPS細胞株によっては、PGC様細胞の誘導効率が低いもの、また卵細胞への分化誘導ができない株も存在していた。これはiPS細胞株間の分化誘導能の違いか、変異型mtDNAの含有率の違いかは未だ明らかでない。しかし、得られた複数のiPS細胞株を試行することで系の構築にまで至ることができた。また、卵細胞系列の各時期における変異型mtDNAの割合の計測は現在、進捗中である。以上のことから、研究の進捗はおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の実績を踏まえ、2022年度は以下の項目を実施する。 (1)卵細胞の分化過程において変異型mtDNAの割合を計測:卵細胞系列における変異型mtDNAの排除時期を決定するために、各発生ステージの卵母細胞や、培養環境の外圧を調整することで原始卵胞卵を誘導し採取する(Nagamatsu et al., 2019 Sci. Adv.)。採取した卵母細胞や原始卵胞卵において定量的PCR法により野生型mtDNAと変異型mtDNAのコピー数を定量する。本項目は以降の研究を進行する上でも重要であることから、速やかに実施する。 (2)変異型mtDNAの排除様式の決定:上記で明らかとなる排除時期において、変異mtDNAをもつ卵細胞が排除されているか、卵細胞内において変異mtDNAが排除されるか、のどちらの排除様式であるかを決定する。前述の排除様式の検討では、変異型mtDNAを有するiPS細胞株由来の卵母細胞の細胞死の頻度と成長ステージごとの卵胞数を変異型mtDNAのないiPS細胞のものと比較する。これらに違いがない場合には後述の排除様式に関し、卵細胞内におけるmtDNAの増幅と分解をライブイメージング解析により検討する。 (3)変異型mtDNAを制御する因子の同定:変異型mtDNAの割合が最も変化する培養期間において、ミトコンドリアの働きに影響を及ぼす可能性のある培養条件を変化させ、卵細胞数や変異型mtDNAの割合がどのように変化するか評価する。これによりミトコンドリアへの負荷と変異型mtDNAの排除との関連性を検討する。
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