2022年度の研究では、卵母細胞系列における変異型mtDNAの排除時期を決定するため、以下の項目を実施した。 (1)変異型mtDNAの割合の測定:体外培養系における卵母細胞系列の各発生ステージの卵母細胞において、定量的PCR法により野生型mtDNAと変異型mtDNAのコピー数を定量した。これまでに作製したStella-tdTomatoレポーターiPS細胞株(60-80%の変異型mtDNAをもつ)を起点にエピブラスト様細胞、PGC様細胞を誘導、さらにPGC様細胞と胎仔卵巣体細胞を凝集培養することで、PGC様細胞から卵母細胞へ分化誘導した。各ステージにおける単一細胞を回収し、変異型mtDNAの割合の変動を調べた。その結果、特異的に変異型mtDNAの割合が変動する時期は見られなかった。次に、以下(2)の発生ステージに焦点を当て、研究を進めた。 (2)静止状態を模した原始卵胞の誘導:通常の卵細胞分化誘導系では、成体での静止状態期の原始卵胞を経ることなく、卵母細胞が成熟する。そこで、所属グループで確立した方法に従い酸素濃度(5%O2)と培養環境の外圧(33.3-100 kPa)を調整することで、成体での静止状態を模した原始卵胞卵の誘導を試みた。まず野生型mtDNAのみを有するES細胞から誘導した卵細胞分化誘導系において原始卵胞卵の誘導を検討した。通常の卵細胞分化誘導系では二次卵胞卵にまで成熟する培養期間21日時点では原始卵胞状態であるが、それより長期の培養では、活性化・成熟し二次卵胞卵まで成長することが明らかとなった。今後は、より静止状態を維持した原始卵胞の培養検討を行う必要がある。これにより、成体での各卵細胞発生ステージに近い卵細胞を対象に変異型mtDNAの割合の解析を行うことが可能となる。 研究期間全体を通じて、変異型mtDNAをもつモデルマウス由来のiPS細胞を起点に体外卵細胞分化誘導系をはじめて確立することができた。これにより卵細胞分化誘導系を用いた解析系を拡大させることが期待される。
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