研究課題/領域番号 |
21K14967
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小林 寿美 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (80609701)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | サイレージ / Clostridium属細菌 / 飼料 / 発酵 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、サイレージの発酵過程における微生物の変遷とClostridium属細菌の多様性の解明、サイレージの低質化に関与するClostridium属細菌を特定することを目的としている。 本年度はまず、サイレージ発酵過程における微生物の変遷を検討するため、寒地型イネ科牧草4種をそれぞれ実験室規模サイロでサイレージ調製し、室温で貯蔵した。貯蔵10日後、30日後、6カ月以降に開封し、発酵品質ならびに微生物叢を分析した。サイレージ中のClostridium属細菌の多様性を明らかにするため、上記の寒地型イネ科牧草およびそのサイレージからClostridium属細菌および近年Clostridium属細菌から再分類されたLacrimispora属細菌と推定される微生物を分離するための培養手法を確立し、100株以上分離することに成功した。 また、牧草やサイレージ、飼料原料中のClostridium属細菌の多様性を明らかにするため、それらから分離した微生物の生理・生化学的性質および分子生物学的解析を行ったところ、トウモロコシサイレージから分離したClostridium属細菌は新規微生物であることが明らかとなり、Clostridium zeaeとして公表した。さらに、分離した菌株と比較検討するためにClostridium属細菌の標準菌株についても同様の解析を行ったところ、Clostridum methoxybenzovoransについては再分類を行う必要があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定よりも多様な寒地型イネ科牧草種および品種を栽培・収穫することで、多様なサイレージ原料を得ることが出来、それらの原料を用いて調製したサイレージの乳酸菌やClostridium属細菌等の菌数について調査を行うことで草種や品種による違いについて検討することが出来た。 また、サイレージから分離したClostridium属細菌の生理・生化学的性質の解明と低質化の原因菌種の推定については、研究計画に基づいて順調に遂行している。サイレージやその原料からClostridium属細菌を分離するための培養手法を確立することで、現在までにサイレージおよびその原料等から100株以上のClostridium属細菌を分離することが出来た。さらに、新規微生物の発見や既知のClostridium属細菌種の再分類についての成果を得た。 上記の理由により、本研究はおおむね順調に遂行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はサイレージや飼料、その原料から分離したClostridium属細菌の分類・同定を当初の計画通りに研究課題を進めつつ、次の課題である分離菌株を用いた牧草接種による低質サイレージ発酵の再現を行う予定である。そのための候補株を、有機酸の生成能力や生育条件(低pH環境での増殖能力や糖の資化性等)等の生理・生化学的性質により選定する予定である。また、分離した微生物の中には、その生理・生化学的性質と分子生物学的解析から新規微生物であると考えられるものが多数含まれていた。これまで考えられてきたClostridium属細菌種以外にも低質なサイレージ発酵に関与する細菌は存在しているという仮説を裏付けるため、新規微生物の生理・生化学的性質を明らかにし、サイレージ発酵との関連性について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行状況により、当初現地で参加を予定していた学会がオンラインになったことにより旅費などが執行されなかった。これまで多くの成果を得られていることから、次年度は当初予定していた学会以外でも成果公表を行うことを検討したい。 また、既知のClostridium属細菌の生理・生化学的性質から、サイレージやその原料からの分離や維持管理はかなり困難だと考えられた。そのため、サイレージやその原料の微生物叢の多様性を明らかにするために、次世代シーケンス解析による微生物叢解析を複数回行う計画であった。しかしながら、効率的な分離・培養手法を確立することに成功し、新規微生物を含む多くのClostridium属細菌を分離・培養することができた。そこで、分離した微生物の保存や、新規微生物を公表するための解析を優先して行うこととした。次世代シーケンス解析は次年度以降に行い、培養法による微生物叢の解析データの信頼度を高めたいと考えている。
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