研究課題/領域番号 |
21K14970
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
播磨 勇人 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 博士研究員 (70805407)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ネルソンベイオルソレオウイルス / 病原性 / 遺伝子改変技術 |
研究実績の概要 |
コウモリ由来のネルソンベイオルソレオウイルス(NBV)はヒトに呼吸器疾患を引き起こす新しい人獣共通感染症の原因ウイルスであり、そのウイルス学的性状はまだ不明な点が多い。そのため、NBVに対する治療法やワクチンは確立されておらず、NBV感染症の対策は進んでいない。これらの研究開発には、NBVの病原性発現機構に関する基礎的知見が必要である。本研究では、日本の輸入症例から分離されたNBV臨床株(Miyazaki-Bali/2007株)と新たにザンビアのコウモリから分離されたNBV野生株(Nachunsulwe-57株)の2つのNBV野生株間の病原性の差異を利用して、NBVの病原性を規定するウイルス因子を同定するための解析を実施した。NBVは10分節に分かれた2本鎖RNAをゲノムとして持ち、遺伝子再集合を引き起こすウイルスである。計画書の通り、NBV各10分節の完全長cDNAプラスミドを用いた遺伝子改変技術をNachunsulwe-57株に適用することによって、新たにNachunsulwe-57株をベースとした遺伝子改変技術を確立した。すでに開発されているMiyazaki-Bali/2007株の遺伝子改変技術と組み合わせて2つの野生株間の遺伝子再集合ウイルス(mono-reassortant NBV)を作出し、NBV感染マウスモデルに供した結果、複数の病原性に関わる候補因子を同定した。これらの候補因子の中にはこれまでにNBVの病原性に関わるウイルス因子と知られていたものとは異なるウイルス因子も含まれており、新規の病原性を規定するウイルス因子を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿って、NBVの遺伝子再集合ウイルスを用いた病原性スクリーニングを実施し、完了した。本解析を通じ、候補となる病原性を規定するウイルス因子を同定し、NBVの病原性発現及び獲得メカニズムの一端を明らかにしている。これらの結果は本研究の目的であるNBVの病原性発現機構の解明に大きく貢献するものであり、計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
病原性を規定するウイルス因子が複数同定されたことから、複数のウイルス分節を交換したreassortant NBVを作成し、病原性解析を実施する。また、予想よりも多くの候補となるウイルス因子が同定されたため、同定されたウイルス因子の内これまでNBVの病原性因子として認識されていなかったものを中心にさらなる解析を進める。次年度は、候補となるウイルス因子に検出用のタグを付与した組換えウイルスを作成し、ウイルス因子と相互作用する宿主因子を探索するための解析に着手する。また、同定したウイルス因子において病原性に重要な遺伝子領域を決定するための解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の計画にあった病原性スクリーニング解析を実施したところ、予想よりも多くの候補となるウイルス因子が同定された。このため、病原性に重要な遺伝子領域を決定するための解析を延期し、いずれのウイルス因子が重要であるのかを確認する実験を追加し、優先した。実際には、計画にあったloss of functionによるスクリーニングに追加して、gain of functionによる解析を実施した。追加の解析は遺伝子領域を決定するための解析よりも規模が小さく、低額のため、次年度使用額が生じた。しかしながら、この変更により、新規のNBV病原性発現機構の解明できる可能性が高まっており、妥当な研究計画の変更であると考えられる。 次年度使用額は、延期した病原性に重要な遺伝子領域を決定するための解析に使用する計画である。
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