研究課題/領域番号 |
21K14976
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
今西 市朗 北里大学, 医学部, 助教 (40868444)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブドウ球菌 / バクテリオファージ / エンドライシン / イヌ表在性膿皮症 / 溶菌酵素 |
研究実績の概要 |
イヌアトピー性皮膚炎(CAD)は、先天的な皮膚バリア破壊によって皮膚炎の再燃を繰り返すが、未だ有効な再燃の予防法がない。CADでは皮膚細菌叢の大部分をブドウ球菌が占めることにより、細菌の多様性が失われる。皮表を除菌すると皮膚炎は一時的に緩和するが、従来の除菌法では皮膚細菌叢の多様性は回復せず、皮膚炎が再燃する。皮膚細菌叢を制御する方法が求められるが、未だ確立されていない。 本研究の目的は、CADの皮膚細菌叢を制御する方法を確立し、実症例においても皮膚炎の発症抑制および皮膚細菌叢の恒常性回復が可能か解析することである。ファージ由来の酵素によって、ブドウ球菌を特異的に除去する方法を用いる。マウスを用いた予備検討 (Imanishi et al, Viruses, 2019)は完了している。また健常犬の皮膚細菌叢を構成する常在菌の一部は、ブドウ球菌の発育を抑制する作用を持つ。このような皮膚常在菌は、CADの皮膚細菌叢を制御する能力を持つ可能性があるが、イヌの皮膚有用菌の探索は未だ行われていない。 本申請課題では、ファージ由来の酵素を用いてブドウ球菌を特異的に除去する方法と、CADに対し有用な皮膚常在菌を特定し、その菌株を塗布する方法を用いて、皮膚細菌叢を制御できるか検討する。それにより確立した皮膚細菌叢の制御法を用いて、CAD犬の皮膚炎の再燃を予防できるかを解析する。 現在のところ、ファージ由来の酵素を外用塗布することによる影響を、皮膚バリア破壊イヌモデルおよび表在性膿皮症犬を用いて解析している。本酵素によってイヌの皮膚表面のブドウ球菌を優先的に溶菌することで、皮膚炎の程度が改善するとともに皮膚バリア機能が回復した。また皮膚細菌叢が非病変部に近づくことを示すことが出来た。現在は、もう一つのテーマであるイヌの皮膚有用菌の探索を行うための準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CADに罹患するイヌの多くで、ブドウ球菌が原因となるイヌ表在性膿皮症の再発が問題となっている。本疾患では、CADによって皮膚細菌叢が乱れた後に皮膚炎が発生すると考えられている。S25-3LYSは、ファージS25-3がコードするペプチドグリカン分解酵素であり、ブドウ球菌特異的に殺菌作用を示す。S25-3LYSに対する耐性菌株は発生し難いと考えられている。今年度は、皮膚バリア破壊イヌモデルに対して与える影響と、イヌ表在性膿皮症の実症例に対する臨床効果を検討した。 まず健常ビーグル犬6頭の側腹部を剃毛により皮膚バリアを破壊した後に、S25-3LYSを14日間連日塗布し、経表皮水分蒸散量(皮膚バリア機能破壊の程度)、病理組織学的検査および皮内反応試験により本酵素の安全性を検討した。その結果、S25-3LYSの塗布によって、経表皮水分蒸散量、表皮厚、浸潤する炎症細胞数および皮膚細菌叢は皮膚バリア非破壊部に近づくことが分かった。また、S25-3LYSの免疫原性を皮内反応試験により評価したが、炎症を惹起する犬はいなかった。 次にイヌ表在性膿皮症の罹患犬11頭にS25-3LYSもしくは陰性対象としてPBSを14日間連日噴霧し、臨床スコア、経表皮水分蒸散量および皮膚細菌叢の変化を評価した。S25-3LYSの噴霧により膿皮症の臨床スコアと経表皮水分蒸散量に改善を認めた。さらにS25-3LYSの噴霧により、病変部の皮膚細菌叢の多様性は健常部に近づき、病変部から分離されるブドウ球菌量が減少した。一方で、PBSの噴霧は、臨床スコア、経表皮水分蒸散量に影響を与えなかった。またPBSの噴霧前後で、皮膚細菌叢の多様性およびブドウ球菌量に変化は認められなかった。 これまでのところ犬を用いたデータを論文掲載に足るレベルで集めきることが出来ているため、今年度までの進捗状況はおおむね計画通りであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ファージ由来の酵素(S25-3LYS)を用いた解析が進んだ一方で、もう一つのテーマであるイヌの皮膚有用菌の探索に関しては、まだ手を付けることが出来ていない。そこで、まずは健常犬の皮膚表面に常在する細菌株を、申請者が過去に報告している方法を用いて分離作業を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初予定していた健常犬の皮膚表面から皮膚有用細菌を分離する実験系を開始することが出来なかった。そのため、当初予定していた培地の購入代金分が余剰金として計上された。2022年度に本実験系を本格始動する予定である。
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