これまでに、実際の感染個体で増殖したウイルスについて、培養細胞等で再増殖することなく、直接付加している糖鎖の構造を解析する手法の確立に取り組んできた。令和5年度も引き続きウイルス粒子の前処理法を検討したが、適切な手法の同定に至っていない。 令和5年度は、令和4年度に蛍光融合タンパク質の融合がウイルス糖タンパク質に付加する糖鎖の構造を変えることを元として、ウイルス糖タンパク質に付加する糖鎖の制御機構について、さらに知見を深めた。具体的には、種々のウイルス糖タンパク質に付加する糖鎖について検討するために、新たに3株の特性の異なるHAタンパク質を用いて組換えタンパク質の発現系を構築した。さらに、発現量の調節やベクターの取扱いやすさを考慮して、これまでCMVプロモーターの制御下でウイルスタンパク質を発現する系を利用していたが、新たにCAGプロモーターの制御下でウイルスタンパク質を発現する系を構築した、これら異なる2つのプロモーターの制御の下、A型インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/1934 (H1N1)株のHAを発現し、付加している糖鎖の構造をレクチンアレイで調べたところ、CAGプロモーターの制御下で発現したHAタンパク質はCMVプロモーターの制御下で発現したそれと比較して、特にマンノース型糖鎖の含有量に差があることがわかった。さらにHAタンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質を作出し、その細胞内での動態を詳細に解析した結果、CAGプロモーターの制御下で発現した場合は、細胞内に顕著にタンパク質が蓄積していることがわかった。以上のことから、細胞内でのタンパク質の合成量が過剰になると、利用できる糖鎖合成機構の許容量を凌駕することで未成熟な糖鎖を有するタンパク質が発現することがあると推定された。
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