令和5年度もH3K36メチル化酵素多重ノックダウンマウスの作出を継続したが、目的の遺伝子改変マウスを得ることはできなかった。H3K36メチル化酵素を多重にノックダウン可能な人工的マイクロRNA(amiRNA)配列のクローニングに成功しているため、現在はpiggy BACトランスポゾンを利用してamiRNAのノックインを試みている。 前年度までに樹立したNsd3ノックアウトマウスについて、1塩基欠失の遺伝子型を有する個体を元にノックアウトラインを樹立した。Nsd3ホモ欠損マウスは正常に発生し、生育した。その出生率18.2%とメンデルの法則に大きく違わなかったため、NSD3は受精後の個体発生には必須でないことが示唆された。その一方で、ファウンダーとして得られたホモ欠損雌マウスと野生型雄マウスによる交配試験の結果、Nsd3ホモ欠損卵からは産仔は得られなかった(N=2)。したがって、母性NSD3が正常な卵形成に重要であることが示唆された。 ヒストン修飾プロファイリング法CUT&Tagの実験系を構築し、マウス卵におけるH3K36me3の全ゲノムプロファイリングを実施した。また、H3K36me3と関連するヒストン修飾として知られるH3K4me3およびH3K27me3についても実験条件の検討を行った。これにより卵ゲノムをH3K36me3ドメイン、H3K27me3ドメイン、H3K4me3ドメイン、並びに、H3K4me3とH3K27me3双方の修飾をもつバイバレントドメインに分類することができ、本手法が入手細胞数の少ない遺伝子改変マウスの卵を用いた場合に有効な解析手法であることが証明された。
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