本研究の目的はFoxA1による標的ヌクレオソーム認識機構の詳細を明らかにすることである。 真核生物のゲノムDNAは、ヒストンタンパク質複合体に巻き付いたヌクレオソーム構造を基本単位としたクロマチン構造を成して核内に収納されている。ヌクレオソーム構造は一般的に転写因子の標的塩基配列への結合を抑制する。しかし、パイオニア転写因子と呼ばれる転写因子群は、ヌクレオソーム中の標的塩基配列に結合することができ、局所的なクロマチン構造変換をともなって、他のクロマチン結合因子の結合を促進することで標的遺伝子の転写を調節する。本研究では、肝細胞への分化において重要なパイオニア転写因子であるFoxA1に着目し、再構成ヌクレオソームを用いた生化学的・構造生物学的解析を行うことで、FoxA1による標的ヌクレオソーム認識機構の解明を目指した。 2022年度は、前年度に引き続き、確立したFoxA1-ヌクレオソーム複合体の調製系を用いて複合体を大量に調製し、クライオ電子顕微鏡観察を行うための、凍結試料作製の条件検討と観察を行った。良好な条件では単粒子解析のためのデータセットを取得し、解析を試みた。 本研究の期間全体を通じて、FoxA1-ヌクレオソーム複合体の調製系の確立は、他のパイオニア転写因子とヌクレオソーム複合体の調製にも応用が効く可能性のある成果である。また、凍結試料作製の条件検討で得られたノウハウは、他の試料を作製する上でも重要な足がかりとなる。
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