研究実績の概要 |
がん細胞は酸化ストレスの増大や栄養状態の低下など、エネルギー的に厳しい環境下でも移動(遊走)する能力を持っている。ストレスレジリエントな細胞遊走能は、単細胞生物から保存されている。多細胞生物では発生、免疫、創傷治癒に重要な役割を担い、細胞遊走に異常があると、先天性異常や臓器の線維化、がんなどの病態を引き起こす。しかしながら、エネルギー消費の高い遊走中の細胞がどのようにストレスレジリエンスを発揮しているのか、その分子機構の多くは不明である。我々はこれまで、悪性脳腫瘍形成・増殖における細胞内エネルギー物質GTP(グアノシン三リン酸)の役割を明らかにしてきた(Kofuji et al., 2019, Nat Cell Biol. など)。GTPのde novo合成には、IMP dehydrogenase(IMPDH)が律速酵素となる。IMPDH活性を阻害する遺伝子操作や薬理学的操作により、がん細胞の遊走は阻害される。我々は細胞内GTP代謝に着目し、細胞内エネルギー代謝の局在変化・区画形成(Metabolic Compartmentalization)によって細胞遊走を制御するという新たなエネルギーシステムの存在を掴むに至った。転移性腎癌細胞における細胞遊走の解析を行った結果、細胞内のGTP分布は、特に細胞遊走時の細胞先導端(leading edge)に集積していることが示唆された。短期的な薬剤処理などによるGTP代謝酵素の撹乱実験から、GTP勾配形成のメカニズムについてIMPDHが関与していること、またGTP濃度勾配形成がストレスレジリエントな細胞運動に関与していることが示唆されつつある。本研究ではGTPエネルギー代謝のメカニカル制御が駆動する新たな細胞遊走機構について明らかにした。
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