研究課題/領域番号 |
21K15021
|
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
斎藤 裕一朗 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 特任研究員 (90836230)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 複製ストレス / 組換え / R-loop / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
DNA複製は、MCM2-7ヘリカーゼ、DNAポリメラーゼ、および制御因子等が複製開始点に呼び込まれることで開始する。ゲノムを安定に保持するためには、ゲノム全体を余すことなく複製する必要がある。しかし、DNA複製は、ゲノム上に存在する様々な障害(DNA鎖架橋や転写装置との衝突など)の影響を受けて停止する場合がある。細胞は、停止した複製フォークの再開、および開始点以外からの複製開始をバックアップ機構として持つことで、障害を乗り越えてゲノムを保持している(これらの複製様式を非典型複製と呼ぶ)。非典型複製経路の制御異常は、ゲノム恒常性の破綻を引き起こし、細胞がん化の要因となる。そのため、非典型複製経路の制御メカニズムを解明することは、細胞がん化を理解する上で重要である。 2021年度は、我々が開発した標的タンパク質分解(AID2)法により、DNA複製ヘリカーゼMCM2を分解除去して複製開始を抑制し、非典型複製だけが機能し得る条件で、細胞の表現型を解析した。その結果、非典型複製経路は、1)通常の複製の20%の活性を持つこと、2)通常の複製で見られる複製タイミング(S期のいつにゲノムのどこを複製するか、を決めるプログラム)が完全に消失すること、3)DNA合成がDNA/RNAハイブリッド(R-loop)に依存すること、4)通常の複製と異なり、MCM8/9ヘリカーゼ、およびPIF1ヘリカーゼが機能することを明らかにした。 この結果は、非典型複製が、通常の複製とは非常に異なるメカニズムによって制御されていることを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オリジナルのAID法の改良(AID2法)に成功し、そのプロトコルをまとめた論文を報告した。また、AID2法により、MCMタンパク質の一つであるMCMBPの機能解析を行った。MCMBPが欠損すると複製ヘリカーゼMCM2-7六量体の形成が阻害され、複製障害が生じることを明らかにした。このことから、MCM2-7六量体の量が減少すると、通常の複製が阻害されることが示された。さらに、AID2法により、MCM2タンパク質を分解除去して複製障害を誘導することで、非典型複製経路を解析した。その結果、非典型複製経路は、1)通常の複製の20%の活性を持つこと、2)通常の複製で見られる複製タイミング(S期のいつに複製されるかを決めるプログラム)が完全に消失することを見出した。現在、そのメカニズム解明を進めている。これまでに、非典型複製経路では、3)DNA合成がDNA/RNAハイブリッド(R-loop)に依存すること、4)通常の複製と異なり、MCMタンパク質であるMCM8/9、および組換えヘリカーゼとして知られるPIF1が機能することを明らかにしている。
|
今後の研究の推進方策 |
非典型複製経路ヘリカーゼの有力候補としてMCM8/9、およびPIF1を同定したが、両因子がどのように非典型複製を促進するのかは定かでない。詳細なメカニズムを解析するため、両因子のノックアウト細胞を作製し、非典型複製経路への影響を解析する。また、MCM8/9、およびPIF1のノックアウトがゲノム恒常性に及ぼす影響を調べることで、非典型複製とゲノム恒常性の関係性を明らかにし、これまでの成果と合わせて論文として報告する予定である。
|