細胞は外界の変化に応じ、翻訳と代謝をダイナミックに制御する。両者の協調的な制御は環境変化に適応するために必須であると考えられているが、その機構には不明な点が多い。前年度までに、翻訳開始因子eIF4A1のノックアウト細胞をグルタミンが不安定な条件で培養するとその増殖が顕著に低下する、という現象を見出し、その原因の候補遺伝子としてODC1を同定していた。ODC1はポリアミン合成の律速段階を担う酵素の遺伝子であり、実際、メタボローム解析からeIF4A1ノックアウトとグルタミン飢餓によってポリアミン量が低下することがわかった。そこで、野生型の細胞を候補遺伝子の特異的阻害剤で処理したところ、グルタミンが不安定な条件における生育が低下し、候補遺伝子がグルタミン依存性の原因であることが示唆された。また、ODC1の5’側非翻訳領域(5’ UTR)を結合させたレポーター遺伝子を作成し、様々に変異を導入することで翻訳制御に重要な配列モチーフを探索したところ、二次構造とupstream open reading frame(uORF)の両方が翻訳に対して抑制的に働いていることがわかった。 並行してeIF4A1とアミノ酸全般の飢餓との関連についても解析を進めた。生育環境からアミノ酸が枯渇すると特定のmRNAの翻訳が著しく低下することが知られている。しかし、eIF4A1ノックアウト細胞では翻訳低下しにくくなっていることを発見した。また、アミノ酸飢餓時の生育低下についても抑圧されていた。すなわち、前述の表現型はグルタミン特異的なものであることが示唆された。
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