原子地球は酸素を含まない還元的な環境であり、一酸化炭素(CO)は原始大気に普遍的に存在すると考えられる。このCOは強い還元力を有する有毒ガスとして知られる一方で、極一部の微生物(CO酸化菌)は現在でもCOをエネルギー・炭素源として利用する代謝系を有す。そのため、好熱嫌気性CO酸化菌は原始地球から現在に至るまで始原的なエネルギー保存様式を保存してきたと期待される。しかし、既知のCO酸化菌の性状解析は限られた系統群の培養株を対象とする研究に留まり、そのエネルギー代謝も理論的に存在が推定される仕組みの一部が明らかとなったに過ぎない。本研究では、CO酸化菌の系統的な偏りの原因は1) 原始地球でもあり得ない高濃度のCO雰囲気下の培養条件、2) 分離源が陸上熱水環境等の特定の環境特性に限定されること、にあると仮説立てた。そこで、低濃度のCOを添加した集積培養系より分離株を獲得し、オミクス解析によりCO酸化を起点とする始原的かつ多様なエネルギー保存様式を明らかにすることを目的とした。本研究では、多様な環境サンプル(深海熱水噴出孔、海底堆積物、陸上熱水堆積物)を播種源として、気相CO10%雰囲気下で100を超える集積培養系を構築した。さらに、これらから新規に12種のCO酸化菌を純化した。この際、CO酸化菌の純度は集積培養系に対する気相分析や16Sアンプリコン解析で確認した。最終年度では、新規に純化したCO酸化菌のゲノム解析を行い、そのゲノム性状を明らかにした。加えて、CO酸化菌に対して安定同位体13Cをトレーサーとするメタボローム解析を実施し、13COや13CO2を増殖基質とした際の代謝解析を通して、CO酸化菌の炭素代謝能とアミノ酸生合成経路を明らかとした。
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