研究実績の概要 |
L型アミノ酸輸送体(LAT)は、LAT1とCD98hcからなるヘテロ二量体型アミノ酸輸送体に属し、抗がん剤や脳への薬物送達の重要な標的とされている。本研究は、クライオ電子顕微鏡を用いた、脂質環境下でのLAT1の構造解析とその薬物認識機構の理解を目的としている。昨年度の成果に基づき、精製したLAT1を脂質環境を模したナノディスクに再構成し、クライオ電子顕微鏡による測定と解析を行った。この際、種々の基質・阻害剤を添加することで、それらとの複合体を形成し、化合物の結合様式を明らかにすることを目指した。これらの実験の結果、LAT1選択的、非選択的な阻害剤の各種に関して、原子モデルの構築が可能な高分解能での構造決定に成功した。 昨年度、抗体Fabフラグメントおよびナノディスクを組み合わせた系により、各種化合物との複合体解析を行うことができた。一方で、当初の予想通り、界面活性剤下では十分な複合体形成が見られない化合物も確認できた。したがって、当初の仮説通り、脂質環境を模したナノディスクの環境が必須であることが見出された。 SLC7ファミリータンパク質に関しても、LAT2、y+LAT1、b0,+ATに関して、野生型、変異型、およびリガンド結合型等の高分解能構造を決定した。また、この知見に基づき、変異体解析を行うことで、構造変化やアミノ酸認識に関わる残基を特定した。 全体を通じて、小さな膜タンパク質のクライオ電子顕微鏡構造解析に関するノウハウを蓄積することができた。特には、試料精製における界面活性剤の最適化、ナノディスク試料の凍結時の添加剤の検討、データ測定箇所の選別、および画像選別における戦略の確立などである。これらのノウハウは他の輸送体タンパク質にも応用することができることから、脂質環境下での膜輸送体の構造ダイナミクスを捉える基盤が揃ったと言える。
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