研究実績の概要 |
これまでに培養細胞であるHeLa細胞に過酸化水素を用いて酸化ストレスを与えると、その強度によって異なる細胞死が誘導される現象に関して解析を進めてきた。その結果昨年度までに細胞内のNAD+濃度、及びATP濃度が細胞死の形態を決定する上で重要な因子であること、細胞内でのNAD+、ATP濃度のダイナミクスが酸化ストレス強度によって異なっていること、細胞内におけるNAD+濃度を決める重要な分子としてPARP1が存在していることなどを見出し、論文に結果をまとめて報告を行った(Nishida et al., Cell Death Discov., 2022)。 2022年度においてはさらに、小胞体とミトコンドリアの相互作用に関して解析を行った。近年、小胞体とミトコンドリアは物理的に近接した領域(MAM)が存在しており、相互にシグナル伝達をしていることが明らかになっている。また小胞体膜上に存在し、小胞体ストレスセンサーとして報告されているPERKはMAMを介したシグナル伝達を制御することでアポトーシスの誘導に関与していることや、褐色脂肪細胞においてミトコンドリアの成熟を誘導しATPの酸化的リン酸化を介したATPの産生に寄与していることが報告されている。以上のような背景からPERKのATP産生や細胞死誘導のメカニズムに関して解析を進めた。具体的には褐色脂肪細胞におけるミトコンドリア成熟にはPERKの3つのセリン残基がリン酸化されることが明らかとなっていたので、そのリン酸化メカニズムに関して解明を試みた。PERKをpull dowm MS解析した結果得られた結合候補因子の中からキナーゼを抽出し、ノックダウン実験や過剰発現の実験によりPERKをリン酸化するキナーゼの同定を試みたが、本年度内には同定に至らなかった。 また期間を通して日本語の総説を2報執筆した。
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