研究課題/領域番号 |
21K15042
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安齋 樹 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (40868824)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | RNAウイルス / RNA複製複合体 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルスや鳥インフルエンザウイルスといった、RNAウイルスが原因となる新興感染症が世界的な問題となっている。ウイルスはゲノムである核酸と数種類のウイルス由来タンパク質から構成されるタンパク質複合体である。これまでの研究において、ウイルスタンパク質のアミノ酸変異が、感染性や病原性といったウイルスの性状を大きく変化させることが報告されている。ゆえに、タンパク質の性状がウイルスの性状を規定していると考えられるものの、その分子メカニズムには不明な点が多い。そこで本課題では、RNAウイルスの増殖に必須であるRNA複製複合体関連タンパク質に着目し、ウイルスの性状に関わるタンパク質の構造・物性などを明らかにしようと考えた。 本年度はSARS-CoV-2のRNA複製複合体関連タンパク質、特にnsp12に着目して研究を進めた。昆虫細胞発現系によるnsp12タンパク質の発現・精製法を確立し、試験管内での活性測定系を構築できた。また、構造多様性に富んだ小分子・中分子化合物ライブラリーを用いて、nsp12に結合するリガンド化合物のスクリーニングを行い、ヒットした化合物についてnsp12タンパク質、及び、SARS-CoV-2の複製阻害活性を検討したところ、数種類の阻害剤を同定することができた。ヒットした化合物は構造多様性に富んでおり、nsp12に対する結合部位は異なると推察される。結合部位とRNA複製阻害活性の相関について検討することで、SARS-CoV-2の複製過程におけるnsp12の重要な構造部位を同定できると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の構想当時の予想と大きく異なり、これまで出現してきたSARS-CoV-2変異株のRNA複製複合体関連タンパク質には明確なアミノ酸変異が同定されていない。そこで、RNA複製複合体関連タンパク質に結合するリガンド化合物を用いて、結合部位と複製活性の相関を議論することで、SARS-CoV-2の増殖における重要な構造部位を同定するという方策で研究を進めた。その結果、RNA複製複合体のひとつである、nsp12に結合する、多様な構造を有するリガンド化合物を同定し、さらに、SARS-CoV-2の増殖を抑制する化合物を同定することができた。よって、ウイルスの性状に関わるタンパク質の構造を同定するという本課題の目的の達成に繋がる結果を得られたため、おおむね順調に進展していると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
SARS-CoV-2については、現在までに得られている結果をもとに、さらなる検討を進める。また、同じRNAウイルスとして、インフルエンザウイルスについても、RNA複製複合体関連タンパク質に着目した、ウイルスの性状を決定づける分子基盤の解明に取り組む。インフルエンザウイルスについては、感染性・病原性などの性状を変化させるアミノ酸変異が多数報告されているため、SARS-CoV-2と比較して、研究を遂行しやすいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本課題の構想時点の予想と異なり、出現したSARS-CoV-2変異株のRNA複製複合体関連タンパク質にアミノ酸変異が同定されなかったため、変異ウイルスの作出と解析に関わる試薬購入に充てる予定だった予算を使用できなかった。 次年度はインフルエンザウイルスの解析を中心に進める予定であるが、インフルエンザウイルスはSARS-CoV-2と異なり、既に多くの変異が同定されている。本年度使用しなかった予算を繰り越すことで、次年度のインフルエンザウイルスの解析における対象の変異を増やす予定である。
|