研究課題/領域番号 |
21K15044
|
研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
前本 佑樹 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (90742619)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | トランスフェリンレセプター / 翻訳後修飾 / 鉄代謝 / リジンアシル化 |
研究実績の概要 |
細胞内の鉄イオンは細胞内の呼吸、核酸合成、増殖など様々な経路に必須である一方、活性酸素やフリーラジカルを産生させることから、適切なコントロールが必要である。細胞内の鉄の取り込みはトランスフェリンとトランスフェリンレセプター (以下、TfR)により行われる。当研究グループによる質量分析解析により鉄代謝に関連するTfRの細胞質ドメインのリジン残基が長鎖アシル化されていることを見出した。本研究ではTfRのリジン長鎖アシル化修飾による鉄代謝の新規制御機構の解明を目的とする。 この目的を達成するため、昨年度は1)TfRのリジンアシル化の簡便な検出方法の確立、2)TfRのリジン長鎖アシル化修飾の修飾動態と機能の解析を行った。長鎖アシル化修飾は、末端アルキン脂肪酸を用いたクリックケミストリー法を利用した、リジン残基のアシル化修飾を質量分析を行わずに安定して検出できるプロトコールを確立し、その手法を用いて、細胞の鉄環境の違いにより、TfRのリジン及びシステインのアシル化修飾が変動することを明らかにした。該当するリジンの変異体による、蛍光標識トランスフェリンの取り込み実験を行い、アシル化修飾が起きないと、蛍光トランスフェリンの取り込みが促進した。この結果はリジンがアシル化されることにより、細胞表面にTfRを止め、適切に鉄代謝をコントロールするあらたなメカニズムの存在が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではTfRのリジン長鎖アシル化修飾による鉄代謝の新規制御機構の解明を目的とする。当初の計画通り、TfRのリジンアシル化を安定して検出する方法を確立することができた。 細胞に血清飢餓をかけた状態でTfRのリジン長鎖アシル化が亢進することが明らかになり、それがTfRの安定化に関与する可能性が示唆された。そこで、TfRとタンパク質分解の関係を調査するため、タンパク質分解酵素の阻害剤を利用した実験を行った。すると予想外にタンパク質分解酵素阻害剤により細胞内TfRの存在量が低下した。この発現量の低下は細胞に安定発現した外来性のTfRで見られることからmRNAレベルでの調節ではないことが示唆される。該当するタンパク質分解酵素阻害剤の標的がTfRの安定性に寄与する新たな因子である可能性が示唆された。 また、鉄キレーター存在下でのTfRの挙動を調べたところ、野生型TfRは蛍光トランスフェリンを細胞内に取り込まないのに対しリジンに変異を入れた変異型TfRは蛍光トランスフェリンを安定的に細胞内に取り込んでいた。このことからリジンのアシル化はTfRの鉄認識に重要である可能性も示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
TfRアシル化修飾の機能および鉄代謝制御機構を明らかにするため、引き続き以下の研究を推進する。 1.本研究で見いだしたリジン残基とその長鎖アシル化検出法を利用し、ヒトが持つ18種類のリジン脱アセチル化酵素KDACの中からTfRの脱長鎖アシル化を担う酵素を同定する。 2.リジン長鎖アシル化変異体を用いて、細胞内鉄含量の測定を行う。 本実験を通して、TfRによって取り込まれたトランスフェリンにより、細胞内に鉄が取り込まれているかを明らかにする。 3. TfRアシル化修飾による細胞内局在変化を検討する。蛍光タンパク質を付与したTfRのリジン残基の変異体は目立った細胞内局在の変化を起こさないが、生化学的な手法を用い、さらに検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定のものが入手できなかったため、次年度使用額が生じた。
|