タンパク質のリジン残基はユビキチン化、アセチル化、SUMO化などの多くの翻訳後修飾を受ける。これらの修飾はタンパク質の機能や安定性を調節し、限られた遺伝情報の中、細胞機能に大きな多様性を与える。その中でもリジンの長鎖アシル化はその長い疎水性の脂肪酸部位の存在から、タンパク質の細胞内局在調節に関わることが報告されている。しかし、脱長鎖アシル化酵素としての基質の報告は未だに少なく、細胞内には未発見のリジン長鎖アシル化タンパク質が多数存在している可能性が高い。そこで、質量分析法によるショットガン解析を行った結果、鉄を輸送するキャリアタンパク質として知られているトランスフェリンレセプター (以下TfR) のリジン残基がパルミトイル化されていることを発見した。TfRは、トランスフェリンと鉄の複合体をエンドサイトーシスによって細胞内に取り込み細胞内の鉄供給に働き、鉄の供給後はリサイクリングエンドソームを介して、再び細胞膜に戻って再利用される。鉄は生物にとって必須元素であり、生体内においてはヘモグロビンと結合して酸素の運搬を行うなど、生命維持の中心的役割を担っている一方、過剰な鉄は毒性を呈することが知られており、その代謝は厳密に制御される必要がある。本研究は、TfRのリジンパルミトイル化による鉄代謝制御機構の解明を目的とした。本研究ではリジンをアルギニンに変えたKR変異体の解析を行い、野生型と比較して、顕著にリジンアシル化が減少することが明らかになった。また、細胞内に取り込まれるトランスフェリンの量は野生型と比較してKR変異体では、有意に増加した。さらに、鉄キレーター存在下でトランスフェリンの取り込みを観察したところ、野生型と比較して、KR変異体ではトランスフェリンの取り込みが抑制されなかった。これらの結果からTfRのリジンアシル化がTfRの機能制御に関わることが明らかとなった。
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