研究課題/領域番号 |
21K15049
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
早乙女 友規 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (40867610)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高温でのRO形成 / DSC測定 / 一残基置換 / アミロイド線維 |
研究実績の概要 |
令和4年度は2種類の小型球状蛋白質(PSD95-PDZ3、Lysozyme)をモデル蛋白質とし、DSC装置を用いた熱測定を中心に行った。まずPDZ3では、結晶中のオリゴマー接触面に存在する親水性アミノ酸(Asn326)を疎水性アミノ酸(Leu)に一残基置換するだけで、DSCサーモグラムで観測される吸熱ピークが1本から2本に増えた。この結果から、PDZ3変異体では高温でのRO形成が人工的に促進されており、RO形成には分子表面の疎水性アミノ酸が重要な役割を果たしたと推測される。また上記の変異体では、高温条件下で生じるアミロイド線維の量が大幅に増えており、ROがアミロイド線維の前駆体である可能性も示唆された。さらにPDZ3野生型に対して、昇温速度を20-60℃/minの範囲で変えてDSC測定を行い、熱変性過程の速度論的な解析を行った。その結果、熱力学的パラメーターは昇温速度に依存していないことが判明しており、PDZ3野生型の熱変性は分オーダーでは平衡に達していると考えられる。上記のPDZ3に関する研究成果は、査読付き英語論文1報(Molecules)、国内学会3件(日本生物物理学会など)で発表済みである。 またLysozymeをモデル蛋白質にしたROの物性測定は現在進行中であり、DSC装置を用いた熱測定だけでなく、蛍光装置を用いた高温での物性測定も行っている。様々な溶媒条件下でROの熱安定性やサイズに関する情報を得ることで、まずはLysozyme野生型がRO形成しうる要因を調べていく。またLysozymeは酸性pHで加熱するとアミロイド線維を形成しやすいことが判明しており、ROを生じやすい溶媒条件下ではアミロイド線維も優先的に形成されるのか、合わせて確認したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、1種類のモデル蛋白質(PSD95-PDZ3)に対して、分子表面の疎水性アミノ酸を疎水性アミノ酸に一残基置換することで、高温でのRO形成を人工的に促進できた。また先行研究では逆のアプローチとして、分子表面の疎水性アミノ酸を親水性アミノ酸に変えることで、ROの阻害に成功している。以上の点を踏まえると、少なくともPDZ3に関しては、分子表面に露出したアミノ酸の疎水性が高くなるほど、高温でROが形成されやすくなると推測される。 またROを形成しやすくなったPDZ3変異体では、高温(60-70℃)でインキュベートすると野生型よりもThioflavin T蛍光が有意に高くなった。よってPDZ3変異体ではアミロイド線維の量が大幅に増加したと考えられ、またROとアミロイド線維の形成には正の相関があることから、ROがアミロイド線維の前駆体である可能性も予想される。 以上の進捗状況をまとめると、本研究計画の第3段階である「一残基置換による分子設計法の汎用性の向上」という項目について、分子表面の疎水性アミノ酸を置換することでROおよびアミロイド線維を抑制できる可能性が示唆された。したがって本研究は順調に進展したと考えられ、今後はより多くの種類のモデル蛋白質で同様の傾向を示せれば、分子設計法の汎用性も十分に示せると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、PSD95-PDZ3以外のモデル蛋白質でも同様の実験を行い、疎水性アミノ酸を一残基置換するだけで、ROおよびアミロイド線維の形成は抑制可能なのか調べる予定である。また本研究計画ではDSC装置を用いた熱測定を中心としていたが、新たに蛍光分光光度計・動的光散乱装置を利用することで、高温での蛋白質の物性を解析しようと考えている。 新たなモデル蛋白質の候補としては、「デングウイルス由来エンベロープ蛋白質第3ドメイン(DEN ED3)」または「ニワトリ卵白由来リゾチーム(Lysozyme)」など、これまでの物性測定でROおよびアミロイド線維の形成が確認されたものを検討する。次にモデル蛋白質の立体構造解析から、オリゴマー接触面に存在する疎水性アミノ酸をターゲットにし、疎水性の低いアミノ酸に一残基置換することで変異体を設計する。そしてDSCサーモグラムで1本の吸熱ピークが観測され、Thioflavin T蛍光が低下したことを確認し、ROとアミロイド線維が抑制されたことを証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、既に研究室にあった試薬・消耗品を使うことで実験は問題なく進められており、新しく購入する必要性が少なかったためである。とはいえ、熱測定用のサンプルを調製するための透析膜・限外濾過フィルターなど使用頻度が高くて高価な物品は定期的に購入する必要があった。また蛍光装置用の温度制御装置・解析プログラムを購入するため、100万円以上の高額を支出することになった。以上の背景から、R4年度終了時点での残額は約12万円と僅かであった。R5年度は本研究の最終年度にあたるため、実験関係の経費だけでなく、学会の出張費や論文投稿経費など、様々な用途に割り当てようと計画している。
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