令和5年度は1種類の小型球状蛋白質(Lysozyme)に注目し、DSC装置を用いた熱測定とDLS装置を用いた粒子径の算出を行った。その結果、DSCサーモグラムで観測された1本の吸熱ピークを観測しても、存在する中間体の割合は約10%と少なかった。また酸性pHから中性pHに近づけていくと、70℃以上ではサンプルの白濁が確認され、不可逆的な熱凝集を生じていると分かった。したがって現時点では、Lysozymeのアミロイド線維形成において、可逆的なオリゴマー(RO)がアミロイドの前駆体であるという決定的な証拠は得られていない。こちらについては、モデル蛋白質を再検討し、ROが一部の蛋白質でしか見られない限定的な現象なのか確認していく。 その一方で、2種類の小型球状蛋白質(PSD95-PDZ3、DEN4 ED3)の実験データを再解析し、天然状態のオリゴマー接触面に存在する疎水性アミノ酸を一残基置換することで、ROは効果的に阻害されるという一様の傾向が見られた。また蛋白質分子の熱安定性は増加し、高温で加熱した時のアミロイド線維やアモルファス凝集も十分に抑制されるなど、熱凝集とROの関連性も見えてきた。したがって本研究計画の第3段階である「一残基置換による分子設計法の汎用性の向上」については、一部の種類の蛋白質に関して達成できたとみなせる。今後も様々な種類のモデル蛋白質で、同様のアプローチによってターゲットとなる疎水性アミノ酸を探すことで、蛋白質の熱凝集を抑制するための分子設計法の汎用性をさらに広げられると期待される。なお今年度の研究成果は、和文総説1報、国際学会1件、国内学会2件で発表済みである。
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