研究実績の概要 |
シアノバクテリアの時計蛋白質(KaiA, KaiB, KaiC)による概日振動の制御機構を理解するためには、これらの蛋白質が形成する複合体の構造と動態を明らかにする必要である。本研究では特にKaiCのリン酸化を促すKaiA-KaiC複合体(AC複合体)の形成挙動とその構造を解明することを目的とした。初年度(R3年度)には、超遠心分析(AUC)によって溶液中のKaiA-KaiC解離会合挙動を詳細に調べることで、KaiCのリン酸化状態に依存した結合挙動を解明した。溶液中では遊離KaiA、遊離KaiC、AC複合体、凝集体が共存する多成分系であることが判明した。そこで、AUCによって得られる各成分の存在比率を用いてX線及び中性子小角散乱(SAXS及びSANS、総称してSAS)の実験データを成分分離し、AC複合体の散乱プロファイルのみを抽出する戦略をとった。R4年度終了時点までに、AUC-SAXSによってAC複合体の全体構造に相当する散乱プロファイルを得ることに成功した。さらに詳細な溶液構造解析に向けて、重水素化ラベル試料を用いたコントラスト同調(CM)及びコントラスト変調(CV)-SANS実験の予備検討に着手していた。最終年度(R5年度)にはこの検討結果をもとに、東海村のJRR-3に設置のSANS-U, SANS-J及びフランスのラウエランジュバン研究所 (ILL)に設置のD22を用いてCM-SANS及びCV-SANSを行い、AC複合体中のKaiA及びKaiC部分構造に相当する散乱プロファイルを得た。得られた散乱プロファイルと計算機シミュレーションを組み合わせることで、溶液中のAC複合体におけるKaiAとKaiCの相対配置とそのゆらぎを評価することができた。
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