研究実績の概要 |
本研究課題は、海洋生物の水中接着の分子機構の解明を目的として、イガイおよびフジツボの接着タンパク質の接着メカニズムを解明することを目指す理論研究である。本研究遂行の方針として、接着タンパク質による水中接着の特異性を特定するために、まず、工業的な接着剤であるエポキシ樹脂接着剤に着目して、一般的な接着剤の特性を明らかにすることを目指す。 研究①:水和シリカ(SiO2)表面の界面水の吸着特性を分子動力学計算により調べた。界面水層をBisphenol A diglycidyl ether (DGEBA)分子層とシリカ表面で挟んだ構造を初期構造として、1000 nsのシミュレーションを行った。室温では、DGEBA分子はシリカ表面と直接相互作用しなかったが、温度を上げると、界面水の分布が偏り、シリカ表面と直接相互作用するDGEBA分子の量が増加することを示した。この結果から、湿潤環境における接着では、温度条件は接着構造に強く影響することを明らかにした。 研究②:巨大分子の接着相互作用を評価するための手法を確立するため、エポキシ樹脂とアルミナ(Al2O3)表面間の接着相互作用を、分子動力学計算と量子化学計算を組合せたアプローチにより評価した。分子動力学計算によりDGEBAと4,4’-diaminodiphenyl sulfone (DDS)からなるエポキシ樹脂の架橋構造を作成し、その接着界面構造のエポキシ樹脂の各官能基をフラグメント化することにより、それぞれの官能基が生む接着力を評価した。その結果、DGEBAに由来する水酸基とベンゼン-エーテル部分がDGEBA / DDSエポキシ樹脂の接着応力に大きく寄与することを特定した。 以上の成果により、水中接着メカニズム解明を大きく前進させることができた。また、その知見により、工業的な接着技術の改善・発展に大きく貢献することができた。
|