研究課題/領域番号 |
21K15057
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
作田 浩輝 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (30876206)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水-水相分離 / ミクロ液滴 / 細胞モデル / 人工細胞 / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
生体の細胞はDNA、RNAやタンパク質などの生体高分子を高濃度に含有する水溶液である。生物は高分子が混雑した環境で、「部品」となる生体分子をどのようなメカニズムで適材適所に配置し、機能が構築されるのかといった課題に対する研究は初歩的な段階に留まっている。本研究では、高分子の水-水相分離によるミクロ液滴を用いて細胞モデル系の構築を通して、細胞における生体分子の秩序構造の形成や機能のメカニズムの解明に迫る。生体から抽出した分子や細胞内小器官を用いた細胞構造の再構成や生命機能の構築が溶液の単純な混合により自律的に行われる実験系の確立を目指し研究を展開してきた。 本年度は、生体分子を取り込み自律的に細胞様の構造を形成する高分子の相分離ミクロ液滴について、均一サイズの液滴を形成する方法を新たに確立した。(庄野、作田ら Sci. Rep. 2021) 高分子の相分離ミクロ液滴は撹拌直後から液滴同士の合一により成長し、あらゆる大きさの液滴が形成する。本研究では、高分子の相分離溶液を液滴の大きさ程度の直径のガラス細管に封入することで、均一サイズの液滴がガラス細管内に配列することを見出した。また、相分離過程を記述する数理モデルを用いて容器の形状に基づいたシミュレーションを行い、細管を用いた場合に均一サイズ液滴の形成することを理論的にも確認した。 これまでの研究成果として、細胞の骨格を形成するアクチンが重合の形態により相分離したミクロ液滴に自発的に局在することを明らかにしていた。本年度の研究成果として、液滴内部に局在する重合したアクチン(F-アクチン)は脱重合因子を混合した際に、脱重合が抑制されることを新たに見出した。(和泉、作田ら J. Chem. Phys. 2021) 高分子の相分離ミクロ液滴に局在することでアクチンの重合は促進される一方で、脱重合は抑制されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、高分子の水-水相分離によるミクロ液滴を用いて、生体から抽出した分子や細胞内小器官の再構成や生命機能の構築が自律的に行われる実験系の確立を目指している。 本年度の研究では、細胞骨格を形成するタンパク質のアクチンを用いて、細胞様の構造を再構成した場合に、アクチンの重合・脱重合が促進・抑制されることを見出した。生体の細胞内外のような高分子が高濃度に存在する条件で生じる相分離により形成したミクロ液滴がアクチンを局在させ、重合の促進、脱重合の抑制が観察できた。このことから、細胞モデル系としてアクチンの生体細胞内での動態に重要な知見を与える研究成果が得られたと考える。 また、生体分子を自発的に取り込むミクロ液滴は複数の高分子の混合により生じるが、長時間の後に液滴同士の合一が進み2層の溶液に分離することが知られている。この影響により、リン脂質の膜構造を有さない場合には液滴のサイズが整わず、サイズごとに観察結果に僅かな違いが生じる問題があった。本年度の研究で、高分子の相分離溶液をガラス細管に封入した場合に液滴が細管の直径程度の均一サイズで配列することを見出した。これにより、均一なサイズでの細胞構造の再構成やその観察が可能になる。また、細管の直径を変更することにより、液滴の大きさを制御できるため、液滴のサイズと生体分子の大きさの依存性についても検討が可能になり、現在、新たに検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も、高分子の水-水相分離によるミクロ液滴を用いて細胞モデル系の構築を通して、細胞における生体分子の秩序構造の形成や機能のメカニズムの解明に迫る予定である。本年度は、アクチンの重合・脱重合に関して発見があったが、今後は、運動タンパク質の運動やDNA/RNAからのタンパク質の発現などのような生体分子の働きについても再構成細胞モデルの確立を試みる。また、生体分子の局在する液滴の環境の与える効果についても検討を行う予定である。局在した生体分子の動態については、局在する空間の大きさ、すなわち、液滴のサイズへの依存性があると考えられる。本年度のガラス細管を用いた均一サイズ液滴の形成手法を用いることで、サイズの効果を明らかにしていく。また、これまでの研究で、リン脂質の分散溶液の共存条件ではリン脂質が液滴の界面に局在し膜状の構造を形成することを明らかにしていた。高分子の相分離液滴を用いた場合、リン脂質の混合の有無により液滴の内外を隔てるリン脂質の膜構造の有無を選択できる。内外の隔てる膜構造の有無がもたらす生体分子の動態の変化についても明らかにするような実験系の確立も視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、液滴のサイズ制御に関して大きな研究成果があり、この課題に注力したため、当初予定していた無細胞タンパク質発現系を用いた検討については初歩的な検討に留まった。また、当初導入を予定していた顕微鏡用の温度制御システムについては所属研究室の他の顕微鏡セットアップの見直しにともない流用が可能となったため導入を見送った。次年度の研究の発展のために試薬や装置の消耗品類が必要であると計画している。また、本年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、当初予定していた国際会議や国内学会、研究会がオンライン開催となったため当初予定していた旅費の利用がなく、参加費の支出のみとなった。旅費の一部は、採択となった論文のオープンアクセス費用として充てた。次年度も論文の採択の際にはオープンアクセスとして費用を支出する計画である。
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