研究課題/領域番号 |
21K15058
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
角山 貴昭 沖縄科学技術大学院大学, 膜協同性ユニット, ポストドクトラルスカラー (90896862)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 1分子蛍光顕微鏡法 / 3次元超解像顕微鏡法 / 神経シナプス / 神経受容体 |
研究実績の概要 |
本研究では超高速3D超解像イメージング技術を開発し、それを用いてシナプスの群島構造を解明することを目的としている。 前年度までには顕微鏡の検出光路にシリンドリカルレンズを挿入し、その性能評価を行った。その結果、適切な曲率をもつシリンドリカルレンズを使用することにより、XY方向の位置決定精度が30nm程度、Z方向の位置決定精度が60nm程度の正確性をもって1分子蛍光追跡が可能となった。 本年度ではさらに広範囲のZ方向への追跡を可能とするため、液体レンズを用いた高速Zスキャンのセットアップを行なった。まず、特注のサンプルホルダーを用いて、対物レンズとレボルバーの間に液体レンズユニットを挿入した状態でサンプルを固定できるように工夫し、観察時のサンプルドリフトを数nm以下に抑えられるようにした。液体レンズの焦点距離はアナログ電圧信号によって制御が可能なので、自作の顕微鏡制御システムを用いて、信号ボードからのアナログ制御が可能なようにセットアップした。さらに観察フレーム単位での同期を可能とするため、カメラ制御信号との同期を可能とするソフトウェアの開発も行なった。 さらにシナプスの群島構造、軸索でのアクチンリング構造を可視化するため、神経細胞の培養方法の最適化も検討した。通常、神経細胞の分散培養ではある程度の細胞密度がないと正常な神経細胞の成熟が阻害されるが、群島構造やリング構造の可視化のためには低密度培養が必須となる。共培養するグリア細胞の密度や、培養液の最適化を試験し、最終的に通常の高密度培養で1週間培養した培地を再利用する、コンディションドメディウムを用いた手法によって、通常の5倍程度まで密度を減らしても通常と同等の成熟が見られることが分かった。 来年度からは実際にセットアップしたシステムを用いて、最適化した神経細胞の観察を行なっていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1分子イメージングでは分子の位置を数十nmの精度で決定できるが、それ故にサンプルのドリフトに非常に影響を受ける。さらに生細胞イメージングではサンプルの温度を37度に保つ必要があり、温度変化によるサンプルドリフトがよりに顕著に見られる。本年度ではこの影響を徹底的に排除するため、様々な試験を行った。まず、特注のサンプルホルダーを作成することで、培養ディッシュを安定に固定することに成功し、液体レンズを含めた顕微鏡システム全体を特製の保温箱で囲うことにより、温度変化を極力排除することに成功した。 これにより、定常状態におけるサンプルドリフトは数分間の間に数nm以下に抑えることが可能となった。これは1分子蛍光追跡においては十分な性能であり、今後の解析において必須な安定性を達成できたと言える。 しかし、液体レンズを高速で駆動した場合の安定性についてはまだ検討が必要である。すなわち、焦点を移動させた時に、(i) 目標位置に達するまでの時間、(ii) 目標位置で安定するまでの時間、(iii) 再度移動可能になるまでの時間、の3点について詳細に検討する必要がある。これらについては、来年度以降に順次進めていく予定である。 また、神経細胞の培養については、細胞同士の重なりを極力少なくするため、より培養条件が厳しい低密度培養が必須となるという問題があった。本年度ではこの最適化を試み、慎重に調整したコンディションドメディウムを用いることで、低密度培養においても4週間以上の長期間に渡って神経細胞を健康な状態に保つことが可能となった。 本年度では、高速駆動時の安定性評価が間に合わなかったが、目標であった液体レンズを導入した顕微鏡システムの構築に成功した。さらに、実際に観察する神経細胞の培養条件についても詳細に検討することができた。これらの結果から、本年度の進展は概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、液体レンズを装備した顕微鏡システムの構築、および神経細胞の培養法の最適化を行なってきた。 今後の研究の推進方策として、まず、顕微鏡システムの開発において、以下の3点について進める。 (1) 前年度に達成できなかった高速駆動時の液体レンズの安定性の評価を行う。様々な速度、繰り返し時間で液体レンズを駆動し、目標位置に対する現在位置の差から安定性を評価する予定である。(2) (1)で得られた基礎データから、実際の観察に用いる撮影シーケンスを考え、開発した制御ソフトウェアに改良を加えることで、目的の観察が可能なシステムを構築する。(3) 得られた追跡データから、多焦点のデータを統合して広焦点の軌跡として再構成するアルゴリズム、ソフトウェアを開発する。すでにastigmatism法を用いて輝点の歪みからZ位置を推定するアルゴリズムは開発済みであるので、これを多焦点のデータに対して適応できるソフトウェアを開発する。 さらに、構築した顕微鏡システムを用いて、順次以下の2点の観察を進めていく。 (4) まず、構築したシステムの性能試験として、通常の培養細胞を用いた観察を行う予定である。神経細胞は調製に時間がかかること、また背景光が高いので、S/Nの高い画像を得ることが難しいという理由から、まずは簡単な培養細胞を用いてテストを行う。ターゲットとしては通常の膜タンパク質を用いて、細胞膜上での3次元拡散を観察する予定である。(5) 最終的に、神経細胞を用いて受容体の運動と分布をスパイン中で3次元観察する。分子はAMPA受容体を用いる予定であるが、結果によっては他の受容体(NMDR受容体)や膜タンパク質(Stargazin)なども観察する予定である。
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