研究課題/領域番号 |
21K15059
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
谷本 勝一 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特別研究員 (30883566)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質凝集 / 神経変性疾患 / アミロイド / ポリグルタミンタンパク質 / 凝集阻害 / 分子動力学シミュレーション / 拡張アンサンブル法 |
研究実績の概要 |
本研究では、神経変性疾患の一つであるポリグルタミン病を引き起こすポリグルタミンタンパク質(polyQ)の凝集をアルギニンが阻害するメカニズム、及びアミノ酸の中でアルギニンだけがpolyQに対する凝集阻害効果をもつ要因を、理論的に解明することを目的としている。2022年度は2021年度に引き続いて、polyQのモノマーに対するアルギニンの凝集阻害効果のメカニズムの解明に向けたシミュレーション研究に取り組んだ。系として、1.polyQのモノマーのみを含む水溶液系、2.polyQのモノマーの周囲にアルギニンを多数配置した水溶液系、3.polyQのモノマーの周囲にリジンを多数配置した水溶液系の三種類作成し、分子動力学シミュレーションを実行して、得られたトラジェクトリを解析した。シミュレーション手法として、拡張アンサンブル法の一つであるレプリカ置換法を適用した。 分子内βシート構造の形成確率を計算したところ、対象とした三種類の水溶液系の間に明確な差は見られなかった。一方で、polyQと接触するアルギニンまたはリジンの個数を計算した結果、リジンよりもアルギニンの方がpolyQと接触する個数が多いことが分かった。この結果は、アルギニンは他のアミノ酸よりもpolyQの近傍に多く存在することでpolyQのモノマーが他のモノマーと相互作用するのを防ぎ、凝集を阻害していることを示唆している。さらに、polyQとアルギニンまたはリジンとの間に形成される水素結合について解析したところ、アルギニンの方がリジンよりも多くの水素結合をpolyQとの間で形成し、なおかつ、二つのアミノ酸の側鎖の構造の違いが水素結合の数の差に大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった。以上のことから、アミノ酸の中でアルギニンだけがpolyQに対する凝集阻害効果をもつ要因を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質の凝集過程に関しては、まず分子内でβヘアピン構造をとり、それが分子間でのβシート構造を誘発する、と一般的に考えられている。そのため当初は、アルギニンがpolyQの分子内βヘアピン構造の形成を阻害することが他のアミノ酸にはない、アルギニンの凝集阻害効果だと考えていた。しかし、実際にはそうではなく、アルギニンが他のアミノ酸よりも多くpolyQの近傍に存在することが凝集阻害の原因であることを発見した。この結果は、これまでに無い新しい凝集阻害メカニズムであり、この分野に大きなインパクトを与えると考えられる。以上の理由により、進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
polyQのモノマーのシミュレーション結果を論文にまとめて発表する。それと並行して、アルギニンがpolyQのオリゴマー形成を阻害するメカニズムを明らかにするために、オリゴマーの最も簡単なモデルとしてpolyQのダイマーを対象とし、ダイマーのみを含む水溶液系、ダイマーとアルギニンを含む水溶液系及びダイマーとリジンを含む水溶液系に対してもモノマーのときと同様のシミュレーションを実行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により当初予定していた学会出張ができなくなったため、次年度使用額が生じた。現在、対面での学会が海外でも再開されつつあるので、アメリカ生物物理学会年会やヨーロッパ生物物理学会年会等への出張を行うために使用する計画である。
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