研究課題/領域番号 |
21K15065
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高安 伶奈 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (20814833)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / ゲノム / 進化 |
研究実績の概要 |
本申請は、腸内細菌が宿主由来の環境圧の下でどのよう にゲノム変異してきたのか、をテーマにし、培養した複数細菌株を無菌マウスに植え、食事条件を変えたグループでトラックする計画を立てている。本年は、2021年4月以降に発表された既報告(Yilmaz et al. Cell Host & Microbe, 2021)を考慮し、無菌動物実験のための細菌培養を継続しつつ、より現実の腸内細菌叢に近いSPFマウスを用いた実験もスタートした。 SPFマウスの長期飼育下での糞便サンプルから、>50検体のショットガンメタゲノムデータと、6検体のロングメタゲノムデータを取得した。得られたロングリードメタゲノムデータからは、同一個体の異なる時期において、同一種の菌のゲノム構造が大きく異なっている可能性が示唆された。また、ショットガンメタゲノムデータをマッピングした結果から、一生の異なる時期において、特定の種/株の増殖速度が大きく変化している可能性が示唆された。 培養実験では、今までに、1000以上のコロニーを単離し、その中から、一生にわたって定着するライフコア細菌を確認した。これらの細菌は、ゲノム解析を行う他、無菌マウスに移植する実験に供与される予定である。 また、無菌動物実験施設利用のための各種手続きと、予備実験として、高脂肪食や高繊維等を用いた食事のintervention実験を行い、腸内細菌の変化を確認した。この時に付随して行った行動試験の結果を論文に投稿予定である。 また、SPFマウスの長期飼育化の糞便サンプルの16S解析の結果を論文に投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年4月以降に発表された、ノトバイオートマウスを用いたゲノム進化に関する既報告を考慮し、当初の研究計画に合わせた無菌動物実験のための細菌培養を継続しつつ、より現実の腸内細菌叢に近いSPFマウスを用いた実験をスタートした。この実験からは、より現実の腸内細菌の生態系に近い株同士のニッチの奪い合いやExtrachromosomal mobile genetic elements (eMGEs)のやり取りなどを観察できる可能性がある。 また、SPFマウスの長期飼育下での糞便サンプルから得たショットガンメタゲノムデータと、ロングメタゲノムデータを組み合わせることで、 ゲノム構造が大きく変化していることを発見した。また、当初のゲノム進化に関する知見のみならず、細菌種の一部が、マウス個体一生の中でその増殖速度を大きく変えている可能性が見えてきた。まだ、これらの結果はよりdepthを増やしたシークエンスデータによる検証を必要とするが、確認されれば新規性の極めて高い報告となる。 SPFの実験を追加したことにより、情報解析のプロセスについても見直しと新規開発を行う予定であるが、これらは、実際のヒトの腸内細菌の時系列データ等が今後得られた際にも応用可能なものとなる。 また、ノトバイオート実験のための予備検討として行ったマウスの食事のintervention実験では、付属的に行った行動試験で、食事選択に関する新規性の高い結果を得て、投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年4月以降に発表された既報告を考慮し、より現実の腸内細菌叢に近いSPFマウスを用いた実験もスタートした。それに伴い、複雑なコミュニティにおける株レベルの解析手法の新規開発も今年度予定している。SPFマウスでは、多様な種と多様な株が初期段階から存在し、その勢力を拡大・縮小しながら時に新規株が発生すると考える。我々は、進化が起こると予想される速度よりも非常に密なサンプリング(数日~2週間に一度)を行うことで、新規に株が発生した際の株同士の系統関係を遡り推定することが可能だと考えている。 また、当初のゲノム進化に関する知見のみならず、細菌種の一部が、マウス個体一生の中でその増殖速度を大きく変えている可能性が見えてきた。本年度は、前年度のプレリミナリーな検討結果をもとに、シーケンスdepthを上げることで、この仮説をさらに検証する必要がある。一生の中での細菌の増殖率の変化とライフイベントの関係などの新規知見が得られる可能性がある。SPFマウスの長期飼育では、個別ケージで飼育するマウスで、大きな体格差が見られるため、それらのメタ情報と株レベルの進化の関連も調べていく。 また、前年度に得られたライフコア細菌、トランジェント細菌株を用いた無菌動物実験も開始予定である。ライフコア細菌はより強く宿主に影響すると予想され、長期的にはこれら個体の寿命等についても考察できると考えられる。また、先行研究には見られなかった、個体の一生のライフイベントとの関連や、一生の中での各菌株の栄枯盛衰や増殖速度の変化、プラスミドやファージも含めたgenetic elementレベルでの変化についても追跡していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
既報告の影響と、無菌施設の空き状況を受けた実験計画の変更により、当該年度に使用予定だった経費の一部を次年度に繰り越した。
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