突然変異率の進化に関する現在の理論では、対象生物における進化的な定常状態を仮定しているため、生態的変化に伴う動的な進化過程にある生物の変異率進化を予測できない。本研究では、既存の理論に基づいた予測とは異なる変異率進化の挙動を示すことが知られている細胞内共生細菌について、突然変異率の進化動態とその進化駆動要因について明らかにすることで、既存の突然変異率進化の理論における定常状態の仮定を緩和し、より一般的な理論へと拡張することを目的としている。 本年度はまず、昨年度に引き続き国内各地に分布する対象属のアブラムシの採集、およびDNA抽出を行った。得られたDNAを用いて、次世代シーケンスのライブラリ作製、およびシーケンスまでを複数回実施した。得られた次世代シーケンスデータを用いて、合計で48系統のアブラムシについて、一次共生細菌(Buchnera aphidicola)および二次共生細菌(Serratia symbiotica)のゲノム配列解読を実施した。その結果、一次共生細菌Buchnera aphidicolaにおいては44株の、二次共生細菌Serratia symbioticaについては37株の完全長あるいは準完全長のドラフトゲノム配列を得ることができた。さらに、およそ50のアブラムシ系統で完全長のミトコンドリアゲノムの配列を得ることができた。これらのデータを既存の公開ゲノムデータと合わせることにより、46系統のアブラムシにおいて、一次共生細菌、二次共生細菌、ならびにミトコンドリアのそれぞれについて比較ゲノム解析を実施した。その結果、2種の共生細菌ゲノムにおいては、ゲノム縮小の過程でそれぞれ異なる変異スペクトラムを持つことを示唆する結果を得た。
|