大部分の固形がんでは、染色体数の異常が見られその背景には、高頻度な染色体分配異常が存在することが知られている。染色体分配異常を引き起こす要因には様々な要因が報告されているが、技術的な問題から個々の染色体に着目しライブセルイメージングによりその特性を明らかにする研究は、これまで困難であった。本研究では、任意の染色体を生きた細胞で可視化・追跡するシステムを用いて、分裂期を通した個々の染色体の動態にどのような差があるのかを明らかにすることを目的とし、CRISPR-dCas9法を応用した染色体ラベリングシステムによる観察システムを構築した。近年、間期核の解析用に開発されたアプタマーをベースとした染色体ラベリングシステムを用いた。染色体上に点在する特異的なリピート配列を認識するsgRNAに、蛍光タンパク質と結合するアプタマーを付加しており、これがヌクレアーゼ活性を欠損したdCas9とDNA上に結合することで、任意の染色体を生きた細胞で可視化して観察することが可能となる。これらの遺伝子を恒常的に発現したRPE-1細胞(正常細胞株)およびU2OS細胞(がん細胞株)を作出した。 その結果、染色体へのラベリングは、染色体分配の正確性に大きな影響を与えることがなく、分裂期を通してライブセルイメージングにより任意の染色体の動態を追跡し観察できることがわかった。また、がん細胞では、高頻度な染色体分配異常が起こることが知られており、がん細胞株においてラベリングされた染色体での、染色体分配異常の様子や、分配異常に至る過程を詳細に観察できることがわかった。
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