研究実績の概要 |
これまでの自身の近接依存性標識法TurboIDを用いた研究から, 細胞死実行因子であるショウジョウバエ実行カスパーゼDcp-1とDriceはそれぞれに固有の反応場を形成し, 非細胞死性の機能を発揮することが示唆されていた. 2021年度は, カスパーゼ近傍タンパク質をより包括的に解析するため, 近接依存性標識法APEX2を導入した. ショウジョウバエS2細胞において, 実行カスパーゼに融合したTurboIDとAPEX2は, 大部分は互いに異なるタンパク質を同定した. 共通に同定された少数のタンパク質を候補として, カスパーゼ活性に及ぼす影響を評価したところ, 細胞死を誘導しない程度の弱い活性化を促すタンパク質が同定された. また, ショウジョウバエ成虫の脳においてもTurboIDによりカスパーゼ近傍タンパク質を同定した. 同定したタンパク質のうち, 特定の膜タンパク質はスプライシング依存的にカスパーゼとの相互作用を強め, 活性化を惹起することを見出した. 以上の結果から, ショウジョウバエ培養細胞及び生体組織の両者において, カスパーゼ近傍タンパク質からなる固有の反応場が確かに存在し, 非細胞死性の活性化を促す可能性が支持された. また, その反応場を構成する具体的なタンパク質の同定にも成功した. また, 研究開始当初, 非細胞死性の微弱なカスパーゼの活性化を生体で検出するレポーターショウジョウバエ系統は限定的であった. 2021年度は, これまでよりも高感度なカスパーゼ活性検出レポーターショウジョウバエ系統の作出に成功した. 今後, より広範な非細胞死性の活性化の検出及びその機能が明らかになることが期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は, 研究開始当初の目的としていたカスパーゼ反応場を構成する具体的なタンパク質を, 近接依存性標識手法から検索した近傍タンパク質から同定することができた. 興味深いことに, 同定したタンパク質の解析から, カスパーゼ反応場は細胞膜やオルガネラ膜といったマクロな構造体ではなく, 細胞膜の特定の受容体の一部など, 非常にミクロな構造体である可能性が浮上し, 申請者のカスパーゼ反応場仮説をさらに補強し, 前進させた. また, 反応場の非細胞死性の微弱なカスパーゼの活性化を検出するために, 既存のカスパーゼ活性検出レポーターよりも高感度なレポーターショウジョウバエ系統の作出に成功した. 以上のことから, 当初の計画以上に進展していると結論した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に作出した高感度カスパーゼ活性検出レポーターショウジョウバエ系統を用い, 得られた近傍タンパク質から, カスパーゼ活性に影響を与えるタンパク質を同定するための包括的な遺伝学的スクリーニングを行う. また, 2021年度の研究結果より, カスパーゼ反応場は想定していたよりもミクロであることが示唆された. そこで, カスパーゼ活性化動態をより時空間分解能よく捕捉するレポーターの作出を目指す. また, 同定したカスパーゼ近傍タンパク質の, これまで同定された非細胞死性の機能への影響を評価することで, 申請者が見出したカスパーゼ反応場の生理機能及びその一般性を検証する.
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