研究課題/領域番号 |
21K15081
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋村 秀典 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (50897410)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / 細胞運動 / 細胞極性 |
研究実績の概要 |
本年度はミトコンドリアが細胞性粘菌の細胞運動に及ぼす影響として、細胞内AT P分布に着目した測定系の立ち上げを行なった。細胞内ATP量に応じてシグナルが変化するFRETプローブおよびF-actinプローブの2種を導入した株を作成し、FRETプローブが機能するかを阻害剤処理により確認した。顕微鏡観察下で細胞に対しミトコンドリアの脱共役剤であるCCCPを添加すると、処理直後からF-actinの重合による仮足の突出変形が停止し、細胞運動が阻害される様子が観察された。また、同時にFRETシグナルの急速な低下が薬剤添加から1分以内に見られた。さらに、細胞運動停止・シグナル低下の確認後に薬剤を作用しない濃度まで希釈すると、細胞運動およびシグナルの回復を確認できた。ミトコンドリアの脱共役による細胞内ATPの枯渇を反映したシグナルが見られたことから、粘菌細胞内でのATPプローブの機能を確認できた。また、ATP枯渇時のF-actinおよび細胞の挙動から、ミトコンドリアによるATP産生が仮足突出による細胞運動の駆動に必要であることが示唆された。一方で、増殖期の細胞において、自発運動時には細胞内ATP濃度の明確な偏りは見られなかった。このような細胞は前後極性があまり持続せず、ミトコンドリアの細胞内の偏りも見られなかった。細胞が一方向に進むような条件で明確な前後極性を維持し続けている時にミトコンドリアおよび細胞内ATP分布レベルを測定することで、細胞極性、ミトコンドリアの配置および細胞内ATP分布の関係性を明らかにできると考えられる。 また、ミトコンドリアの配置や細胞形状の解析において目的の領域を効率よくかつ正確に抽出するため、機械学習を用いた画像解析法を取り入れた。これにより、従来の閾値設定による画像の二値化より高精度で細胞輪郭などの任意の領域を抽出することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリアが細胞運動に及ぼす影響を調べるのに各種シグナルを測定する必要があるが、ATPやCa2+プローブなどを導入した細胞株の作成、測定系の立ち上げを終えることが出来ている。また、ADP/ATP比の測定やミトコンドリア活性を測定するためのプローブ作成なども進めている。ミトコンドリアと細胞運動に関連する遺伝子の欠損株を用いた測定を計画しているが、その変異株の作成に向けてCRISPR/Cas9による変異導入手法についても今年度で習得している。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に機能を確認したATPプローブを用いて、強く極性を示す走化性運動における細胞内ATP局在パターンおよび細胞骨格またはミトコンドリアの配置パターンとの関係性を流路を用いた灌流系により測定する。現在使用しているATPプローブはATPの絶対濃度に応じてシグナルが変化するが、近年重要視されている細胞内のATP/ADP比を測定可能な蛍光プローブを用いた測定も行うため、蛍光プローブの作成およびその機能評価も試みる。また、細胞内ATP濃度の明確な分布が見られない場合を想定し、他にミトコンドリアが関与する可能性があるシグナルとして細胞内pH、Ca2+シグナルのプローブを導入した株を用いた測定を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
先年度において測定系の立ち上げに必須な実験器具、分子生物学関連の試薬を購入していたため本年度は購入品目数を抑えられたのに加え、来年度は現地開催の学会や研究会に参加する機会が増えることが想定されたため、先年度の分を一部次年度に使用することを計画している。
|