研究課題/領域番号 |
21K15084
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾勝 圭 京都大学, 理学研究科, 助教 (00739641)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ユビキチン / 炎症 / 細胞内シグナル伝達 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
炎症や自然免疫の細胞内シグナリングにはユビキチン鎖が関与する。Triad3は、炎症シグナルや自然免疫シグナルの抑制機能をもつユビキチン認識タンパク質かつユビキチン連結酵素 (E3) である。しかし、炎症や自然免疫シグナルに関わる複数の分子をどのように認識して抑制するのか、という分子機構は殆ど理解されていない。本研究では、炎症や自然免疫シグナルで生じるユビキチン鎖へのTriad3のリクルートやE3活性制御機構を解析し、シグナル抑制の作動機構を明らかにする。ユビキチン結合領域を予測するために、AlphaFold2を含む複数の立体構造予測をおこない、Triad3の分子の中央付近にユビキチン結合能のあるCueドメインに相同性が高い領域が確認できた。そこで、大腸菌を用いて精製Triad3 Cueドメインタンパク質を作製して、Triad3のユビキチン鎖の選択性をプルダウンアッセイで確かめたところ、特定のユビキチン鎖と相互作用することが見出された。また、立体構造を明らかにするために、X線結晶構造解析に着手した。まず、結晶を作製するために、残基数の異なるTriad3 Cueドメインの複数のコンストラクションを作製して、ユビキチン鎖との相互作用に必要な最小ドメインを特定した。最小ドメインとユビキチン鎖を複合体状態で精製し、結晶化スクリーニングをおこなった。温度条件や結晶化条件の検討を繰り返すことで、複数の結晶化条件を得ることができた。結晶はSPring-8で測定し、回折像を得ることができた。また、炎症シグナルを正に制御するタンパク質としてTAB2が知られている。これまでTAB2はK63鎖を認識することが知られていたが、K6鎖も認識するdual specificityを明らかにした。一方で、Triad3の触媒反応を理解するために、ユビキチンリガーゼドメインのコンストラクションや結晶化スクリーニングを試みたが、結晶を得ることはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究で、Traid3のユビキチン認識領域のコンストラクションを作製し、精製タンパク質を精製した。それらを用いたプルダウンアッセイによってTriad3のユビキチン鎖認識に必要な最小領域を特定できた。また、当研究室で保有する二量体型ユビキチン鎖を用いた相互作用解析、ユビキチン鎖認識の選択性を見出せた。これらの相互作用情報に基づいて、複合体状態で精製をおこない、結晶化スクリーニングとその後の条件検討によって再現性の高い結晶化条件を突き止めた。さらに、Triad3 Cueドメインとユビキチン鎖の結晶から回折像を得ることができた。しかし、ユビキチンやCueドメインの予測構造の単体構造を利用した解析では位相決定には至っていないので、今後の複合体モデルの構築や短波長異常散乱法による位相決定を試みる必要性が出てきた。また、炎症に関わるシグナルタンパク質TAB2の精製タンパク質を用いて、さまざまなユビキチン鎖とプルダウンアッセイをおこなった。その結果、TAB2はK63鎖の他にK6鎖も認識でき、dual specificityが明らかになった。Triad3の活性中心であるRBRドメインの解析では、長さの異なる複数のコンストラクションを作製し、タンパク質を精製して結晶化をおこなったが、結晶を得ることができなかった。さらにSERp serverを用いた表面残基エントロピー減少法による変異を導入した精製タンパク質の結晶化も試みたが、結晶を得ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
Triad3 Cueドメインとユビキチン鎖の位相決定をおこなうために、AlphaFold2で複合体構造の予測し、予測構造をモデルに分子置換法をおこなう。AlphaFold2はユビキチン鎖を予測することは難しいため、Cueドメインとモノユビキチンなど複合体構造の一部を予測して利用する。また、セレノメチオニン標識したユビキチン鎖を精製して、Triad3 Cueドメインと複合体の結晶を作製して測定することで、短波長異常散乱法による位相決定を試みる。一方で、プルダウンアッセイでユビキチン鎖と相互作用が確認されたTriad3 Cueドメインはユビキチン鎖との結合の強さを調べるために、蛍光偏光法を利用した解離定数の測定をおこなう。この測定には当研究室にある蛍光標識されたユビキチン鎖を利用する。ごく最近、Triad3の活性中心のあるRING2ドメインとユビキチンの複合体構造が明らかとなり、ユビキチン鎖形成に関わる触媒機構の一端が明らかとなった。しかし、ユビキチン鎖形成の前段階であるE2-UbからE3への転移反応は明らかになっていない。今後は、E2-UbとE3の複合体構造の解析を進め、触媒機構の全容解明に取り組む。E2-Ub中間体は不安定なので、E2の活性中心をシステインやリシン残基に変異することで安定化することができる。E1、E2、ユビキチンをそれぞれ精製して、E2-Ub中間体を形成させてから再度精製することで、E3-E2-Ubの三者複合体の結晶化をおこなう。Triad3とユビキチン鎖やE2-Ubとの複合体構造が解けた場合には、立体構造の情報に基づいた変異体解析をおこなう。
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