研究課題
1つの受精卵から細胞分裂を繰り返して私たちの体は作り上げられる。この胚発生の過程では、DNA変異などにより不良細胞が生じてしまう。こうした異常をもつ不良細胞は、将来の健康へ影響しうる。我々は免疫システム形成前の初期胚組織が不良細胞を積極的に除去する能力を備えていることを発見した。しかしながら、胚発生において不良細胞の出現・除去機構の詳細は分かっていない。さらに除去機構を回避した不良細胞が個体の生涯を通して健康に影響し、疾患発症や老化、寿命に関わるのかは不明である。そこで本研究ではゼブラフィッシュなどを用いて、胚発生時に生じる不良細胞の出現・除去機構さらに疾患発症・老化との関係の解明を目指す。研究計画(1) 胚発生における不良細胞の出現機構の解明:現在までに正常なゼブラフィッシュ胚において不良細胞が自然発生することとそれらの多くが隣接する正常細胞群によりアポトーシスを誘導されて除去されることを発見している。しかしながら、これらの不良細胞が生じる原因は不明である。トランスクリプトーム解析から、不良細胞に特異的に発現上昇あるいは低下する候補因子のスクリーニングを行い不良細胞マーカーとなりうる候補遺伝子の絞り込みを進め、レポーターゼブラフィッシュを作製した。研究計画(2) 不良細胞の除去機構の全貌解明:不良細胞に隣接する正常細胞群がどのように不良細胞と感知した後に、アポトーシス誘導を不良細胞に促すのかは全く明らかにできていない。そこで、不良細胞除去機構の全貌を明らかにするために、不良細胞に隣接する正常細胞のトランスクリプトーム解析を行う。実際にトランスクリプトーム解析を実施した。研究計画(3) 不良細胞除去機構の破綻ならびに不良細胞動態と将来の健康への影響の解明:胚発生時に生じる不良細胞の個体の将来の健康への影響を解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
不良細胞マーカーとなりうる候補遺伝子の同定が順調に進めることができまた、トランスクリプトーム解析も実施できたため順調に進捗していると判断した。
引き続き以下の研究計画を進める。研究計画(1) 胚発生における不良細胞の出現機構の解明:以前のトランスクリプトーム解析から、不良細胞に特異的に発現上昇あるいは低下する候補因子のスクリーニングから絞り込んだ不良細胞マーカーとなりうる候補遺伝子について解析を進める。研究計画(2) 不良細胞の除去機構の全貌解明:不良細胞除去機構の全貌を明らかにするために、不良細胞に隣接する正常細胞のトランスクリプトーム解析を行う。そのためにトランスクリプトーム情報を解析できる新規の手法をゼブラフィッシュで実際に解析を行う。研究計画(3) 不良細胞除去機構の破綻ならびに不良細胞動態と将来の健康への影響の解明:胚発生時に生じる不良細胞の個体の将来の健康への影響の解明を目指す。そのために、不良細胞の除去機構を破綻させた場合に、不良細胞の後々の組織への影響や疾患発症、老化、寿命への影響を評価する。不良細胞除去機構を破綻させるために、計画(2)で明らかになった除去機構に関わる分子を機能改変したり、あるいは不良細胞特異的に発現上昇する遺伝子を利用して強制的にアポトーシスを抑制して、不良細胞の動態と疾患発症など関係を評価する予定である。
研究を遂行する学生が研究助成金を獲得したり所属大学の論文投稿支援などもあり次年度使用が生じた。次年度は成果が蓄積する最終年度であるので、比較的費用がかかる国際学会に多く参加し成果を広く発表するのに使用する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Cell Reports
巻: 40 ページ: 111078~111078
10.1016/j.celrep.2022.111078