研究課題/領域番号 |
21K15086
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
清水 達太 神戸大学, 医学研究科, 学術研究員 (70882869)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 老化 / 視床下部 / タニサイト / 細胞接着分子 / ネクチン / GLUT1 |
研究実績の概要 |
様々な生物の寿命は食事制限により延長するが、個体の老化・寿命の制御機構の多くが未解明である。視床下部では、第三脳室の側壁を覆うタニサイトが脳脊髄液中のグルコース濃度を感知し、その情報を摂食行動制御の中枢である弓状核へ伝達する。近年、視床下部は老化・寿命を司る上位中枢として注目されており、弓状核で産生される摂食制御ホルモンは老化や寿命との関連が示唆されている。このホルモン産生制御にはタニサイトの正常なグルコース感知機能が重要と考えられるが、老化過程におけるこの維持機構は不明である。研究代表者はこれまでにタニサイトにおいて、細胞接着分子ネクチン-1が特徴的な発現パターンを示すことを明らかにしている。そこで本研究では、ネクチン-1とタニサイトのグルコース感知機能および弓状核ホルモン産生制御との関係について検討する。 当初はネクチン-1遺伝子欠損マウスを使用して解析を進める予定であったが、ネクチン-1はタニサイトだけでなく、神経細胞やアストロサイトなどでも発現しており、タニサイトだけでの機能解析が難しいことが明らかになった。そこで、ネスチンプロモーターでCreERT2を発現させ、タモキシフェン投与により成体でタニサイトを含む幹細胞でネクチン-1を欠損させることができるコンディショナルノックアウトマウスを作成した。このマウスではタモキシフェン投与後2週間で約70%のネクチン-1陽性タニサイトでネクチン-1を欠損させることができた。現在このマウスを用いて解析を進めているが、すでにネクチン-1の欠損により弓状核のホルモン産生が変化することを見出している。加えて、このマウスでは摂食行動なども変化する傾向を見出しており、今後詳細な解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、当初はネクチン-1遺伝子欠損マウスを使用予定であったが、タニサイトでのネクチン-1の役割を検討するためにコンディショナルノックアウトマウスを作成した。このマウスでは神経細胞でネクチン-1を欠損させることなく、成体でタニサイトを含む幹細胞で特異的にネクチン-1を欠損させることができ、ネクチン-1を欠損してからの経時的な変化を検討することができるようになった。すでに、このマウスにおいてもネクチン-1遺伝子欠損マウスでも見られた弓状核のホルモン産生の変化が起こることを見出した。また、それ以外にもタニサイトのネクチン-1の欠損で摂食行動なども変化する傾向を見出している。また、初代培養タニサイトでネクチン-1の機能を解析するために、siRNAでノックダウンするための条件検討を進めている。このように本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作成したコンディショナルノックアウトマウスを用いて、タニサイトでのグルコーストランスポーターの局在と弓状核の他のホルモン産生の変化を検討し、自由摂食と絶食と再給餌した時の神経活動を転写因子c-Fosを指標に検討する。また、これらがネクチン-1の欠損から経時的に変化するかも検討する。当初用いる予定であったネクチン-1遺伝子欠損マウスでは摂食量の比較ができなかったが、コンディショナルノックアウトマウスではそれが可能となったため、ネクチン-1欠損後の摂食量、体重変動を解析する。さらに、初代培養タニサイトでネクチン-1をノックダウンすることでグルコース感知機能の変化とその詳細な機構を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、すでに所属研究室で飼育していたネクチン-1遺伝子欠損マウスを使用する予定で本年度に飼育費用が多額になることを予定していた。しかし、上述のように、所属研究室で保有していたネクチン-1のfloxラインとネスチンプロモーターでCreERT2を発現するラインを交配させてコンディショナルノックアウトマウスを作成する必要が生じた。そのため、交配と繁殖に時間がかかり、実験に必要な個体数確保のための大量飼育が次年度にずれ込んだ。また、ネクチン-1を欠損させるために必要なタモキシフェンを新たに購入する必要が生じた。そのため、これらに係る経費を次年度に繰り越した。
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