様々な生物の寿命は食餌制限により延長するが、個体の老化・寿命の制御機構の多くが未解明である。視床下部では、第三脳室の側壁を覆う一部のタニサイト(α2タニサイト)が、脳脊髄液中のグルコース濃度を感知し、その情報を摂食行動制御の中枢である弓状核へ伝達する。また、α2タニサイトは、成体においても神経幹/前駆細胞としての自己増殖能と神経細胞への分化能を有している。近年、視床下部は老化・寿命を司る上位中枢として注目されており、弓状核で産生される摂食制御ホルモンは老化や寿命との関連が示唆されている。このホルモン産生制御にはα2タニサイトの正常なグルコース感知機能と神経幹/前駆細胞機能が重要であるが、老化過程におけるこれらの機能の制御機構は不明である。これまでに研究代表者は、細胞接着分子ネクチン-1が、α2タニサイトに特異的に発現していることを見出していた。そこで本研究では、ネクチン-1をネスチンプロモーターでCreERT2を発現させて時期特異的にタニサイトの本分子を欠損させたところ、tdTomatoでラベルしたタニサイトから神経細胞への分化が促進された。また、ネクチン-1を欠損したタニサイトでは、Ki67などの細胞周期マーカーは変化しなかった。さらに、初代培養タニサイトでも、siRNAでネクチン-1をノックダウンすると、タニサイトから神経細胞への分化が促進された。しかし、成体のタニサイトで長期にネクチン-1を欠損させると、弓状核の神経細胞数が顕著に減少した。これらの結果から、α2タニサイトのネクチン-1は、神経幹/前駆細胞の分化を抑制してその機能を維持し、その結果弓状核の神経細胞数の維持を制御していることが明らかになった。
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