研究課題/領域番号 |
21K15090
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山本 正啓 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特定研究員 (30880166)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 活性化型線維芽細胞 / 進行性の線維化 / 新規線維化関連蛋白 / HFpEF / トランスレーショナル研究 |
研究実績の概要 |
『左室収縮能が保持された心不全(HFpEF)の進行性の線維化に着目し、Human Epididymis Protein 4 (HE4)の関与を解明し、新たなバイオマーカーおよび治療標的としての有用性を検証する』ことを本研究の目的としている。HFpEFは年齢や生活習慣病・多臓器連関が複雑に交わり、心筋細胞の変性や病的な線維化の進行の結果、心臓の拡張障害が生じるとされるが、詳細な機序は未解明で有効な内科的治療さえも確立されていない。組織の線維化の過程においては線維芽細胞が活性化しキープレイヤーとして働くが、HE4は線維芽細胞の活性化に伴い同細胞において発現が亢進し血液中に分泌され線維化を惹起する新規線維化関連蛋白である。 申請請者らはHE4が細胞内シグナルであるERKの活性化を介し心臓の病的線維化の進行と心機能低下に関わることを示した(J Am Heart Assoc. 2021)。さらに、HFpEF患者を対象にHE4のバイオマーカーとしての有用性を明らかにした(日本循環器学会. 2022)。 つづいて、現在は動物・細胞実験にて、HFpEF病態におけるHE4の役割と心臓の進行性線維化の機序の解明に取り組んでいる。近年報告されたL-NAME+高脂肪食負荷(HFpEF負荷)がマウスにおいてHFpEF様病態を示すことを応用し、負荷をHE4のコンディショナルノックアウトマウスに行い、野生型マウスでの表現型と比較・検証している。HE4コンディショナルノックアウトマウスの作成は我々が先駆的に取り組んでおり、2022年3月に作成に成功した。また、並列して細胞実験を行っている。心臓の線維芽細胞に対してHE4ノックダウンを行い線維芽細胞の分化や細胞外基質の増生といった挙動の変化を評価している。 以上の研究を通してHFpEF病態におけるHE4の役割と心臓の進行性線維化の機序の解明に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規線維化関連蛋白であるHE4に着目し、ヒト・動物実験・細胞実験を通して、HFpEFの病態解明に取り組んでいる。 先述の通り、HFpEF患者を対象とした臨床研究においてHE4血中濃度が将来の心不全増悪を予測することを明らかにし、全国学会で報告した。今後は症例数を増やし、研究の妥当性を評価していく方針であり、ヒトを対象とした研究においては順調に進展していると考える。 動物実験においては、野生型マウスを対象として先述のHFpEF負荷を行い、HFpEF負荷にて心臓でHE4の発現量が亢進することを確認している。今後はHE4のコンディショナルノックアウトマウスに同様の負荷を行い、野生型マウスでの表現型と比較・検証することとしている。ノックアウトマウスの作成は、2022年3月に作成に成功し、解析を進めているが、ノックアウトマウスの作成に時間を要したため、動物実験に関しては、やや遅れていると認識している。 細胞実験においては、ラットの心臓の線維芽細胞を用いて検証を進めている。同細胞において、TGF-βやアンギオテンシンⅡの刺激を加えたところ、線維化を示すⅠ型やⅢ型コラーゲンの遺伝子の発現量、線維芽細胞の分化を示すαSMAやPAI-1の遺伝子の発現量が亢進することと同時にHE4発現量が亢進することが確認された。一方で、同細胞に対してsiRNAをもちいてHE4ノックダウンを実施した際に、TGF-βレセプター1の活性化が低下したが、TGF-βレセプター2の活性化は亢進するといった結果であった。このことは、HE4が様々な経路で線維化に関わる可能性を示唆していると考えられ、未だ明らかになっていないHE4の線維化に関わる役割を明らかにする手がかりとなり得ると認識している。 引き続き、ヒトを対象とした臨床研究、動物実験・細胞実験をそれぞれ検証しながら実験を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトを対象とした臨床研究においては、先述の通り症例数を増やし、統計的妥当性を検証すると同時に、再入院時や外来時の血清サンプルの採取を追加で実施・解析し、HE4値の経時的な変動と各心臓イベントや左室病的リモデリングの程度との関連の有無を評価することでHFpEFの至適治療をガイドする治療マーカーとしての有効性についても評価を行う方針である。 動物実験においては、先述の通りHE4のコンディショナルノックアウトマウスにHFpEF負荷を行い、野生型マウスでの表現型と比較・検証する。具体的にはサンプリングの際の血圧や心臓超音波検査での心機能や左室圧容量曲線による血行動態、心重量などを評価し、心臓でのHE4発現量との関連を評価する。また、心臓のメタボローム解析を通して心臓組織が低酸素・低栄養状態に陥った際に亢進するとされる嫌気性代謝が、どの程度変化・亢進しているかを評価する。その他、病理学的アプローチにより、心臓組織中へのマクロファージを始めとした炎症細胞の浸潤の程度を確認する。その後主に心臓線維芽細胞をターゲットとしたプロテオーム解析を行う。これらの検討を通して心臓におけるHE4上昇の具体的な機序と、心臓組織における表現型へのHE4の関与を明らかにしていく。 細胞実験においては、今後は先のHFpEF負荷を実施したマウスの心臓から線維芽細胞を単離し、線維化を示すⅠ型やⅢ型コラーゲンの遺伝子や蛋白の発現量、線維芽細胞の分化を示すαSMA・Ki-67やPAI-1、細胞分化を誘導するTGF-β・IL-6・IL-11やFGFといった各遺伝子や蛋白の発現をPCRやウエスタンブロッティングにて解析する方針である。さらに、同様の線維芽細胞を培養し、そこに様々なを加えた際の線維化に関わる遺伝子や蛋白発現量の変化を解析することで、HE4の変動に関わる機序、その結果起こり得る事象を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
先述の通り、HE4のコンディショナルノックアウトマウスに同様の負荷を行い、野生型マウスでの表現型と比較・検証することとしており、2022年3月にHE4のコンディショナルノックアウトマウスの作成に成功し、解析を進めているが、ノックアウトマウスの作成に時間を要した。主に動物実験に対する使用額が翌年度以降により必要になってくると認識している。
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