研究課題/領域番号 |
21K15095
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
藤原 佐知子 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 特任助教 (40771879)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タイトジャンクション / アクチン細胞骨格 |
研究実績の概要 |
上皮細胞は複数種類の接着複合体を細胞間および細胞-基質間接着部位に形成している。本研究では、細胞間接着複合体の一つであるタイトジャンクションに注目し、タイトジャンクションを中心とした細胞全体の接着と細胞骨格の相互依存的な制御の分子機構の同定を目指している。令和3年度は特に、タイトジャンクションの主要な構成因子の一つであり、かつアクチン繊維と結合する性質を持つZO-1に着目し、ZO-1の機能とアクチン骨格との関係に重点を置いて研究を推進した。 1. タイトジャンクションに局在できないZO-1点変異体の作製 これまでに欠失変異体を用いた解析で、ZO-1のN末の保存領域がタイトジャンクションへの局在に必要であることが示されている。しかし近年、ZO-1の構造変化による機能制御が示唆されており、ドメインを削った欠失変異体では三次元構造への影響が無視できず問題となっている。そこで今回、点変異導入による局在喪失変異体の作製を試みた。保存領域の複数のドメインを狙って変異導入を試した結果、タイトジャンクションへの局在が減弱もしくは喪失する変異体を複数作製することに成功した。 2. ZO-1とタイトジャンクションの相互作用がアクチン骨格に与える影響 ZO-1/ZO-2ダブルノックアウト細胞に野生型ZO-1を発現させた細胞株と、1で作製したZO-1点変異体を発現する細胞株をCRISPR/Cas9法を用いて樹立し、これらの細胞のアクチン骨格を共焦点顕微鏡を用いて詳細な解析を行った。既にZO-1/ZO-2のダブルノックアウト細胞では、アクチン骨格が大きく乱れて繊維構造も異なることが既に当研究室で示されているが、今回、ZO-1の点変異はアクチン骨格に与える影響はダブルノックアウト細胞とは異なること、さらに変異を導入したドメインによっても異なることを新たに見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はタイトジャンクションを中心とした細胞全体の接着と細胞骨格の相互依存的な制御機構の解明を目的としている。本年度は特に特に、タイトジャンクションの主要な構成因子の一つであり、かつアクチン繊維と結合する性質を持つZO-1に着目し、ZO-1の機能とアクチン骨格との関係に重点を置いて研究を推進した。ZO-1の機能については、ZO-1のタイトジャンクション局在が弱まるもしくは失う点変異体を複数作製することに成功し、今後の研究の加速につなげることができた。また一般的にタイトジャンクション構成タンパク質とアクチン骨格の観察のための最適な固定方法は異なり、これまで両者の同時観察は高解像度で得ることは難しかったが、今年度私は両者を高解像度で観察するためのサンプル作成と観察法の条件検討と最適化に取り組み、共焦点蛍光顕微鏡での詳細な解析ができるに至っており、研究を加速できる見込みである。これらで得られた成果は次年度の国内学会での発表および論文執筆に向けて準備を進めている状況にあり、おおむね順調に研究が進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、細胞間接着複合体の一つであるタイトジャンクションに注目し、タイトジャンクションを中心とした細胞全体の接着と細胞骨格の相互依存的な制御の分子機構の同定を目指している。私は令和3年度に、タイトジャンクションの主要な構成因子の一つであり、かつアクチン繊維と結合する性質を持つZO-1について、タイトジャンクション局在が減弱もしくは喪失する点変異体を複数作製した。点変異の導入箇所については名古屋大学創薬科学研究科 廣明秀一教授からのご協力を得て決定しており、今後の協力体制についても了承済みである。ドメイン欠失ではなく点変異を適用することにより、三次元構造変化に影響を及ぼさないことが期待できるが、私はこれらの点変異体が、変異導入箇所により、アクチン骨格に異なる影響を及ぼすことを新たに見出した。ここでアクチン骨格は細胞間ではアドヘレンスジャンクション、細胞基質間では接着斑に繋ぎ止められていることから、今後はアクチン構造変化の三次元的な画像解析を推進して、具体的な影響箇所と内容を明確にする。またアクチン骨格に及ぼされた影響の分子機構として、Rhoシグナルをはじめとする各種シグナル経路の変化を検証する。さらにシリコーン基板による細胞のトラクションフォース可視化法を利用し、タイムラプス観察を行い、細胞の力の発生と運動に対するZO-1変異の影響を明らかにする。これらにより、タイトジャンクションとアクチン細胞骨格制御の詳細な分子機構と、細胞接着と細胞運動に対する意義を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では細胞間接着と細胞骨格の統合的な制御機構を理解するために、まずタイトジャンクションの主要な構成因子の一つであり、かつアクチン繊維と結合する性質を持つZO-1に着目し、アクチン細胞骨格との関係性の検証から研究を開始した。 ここでタイトジャンクション局在を減弱もしくは喪失させるZO-1の点変異が、想定以上にアクチンに複雑な影響を及ぼしたため、令和3年度は特に、アクチン細胞骨格の解析に重点をおき研究を推進した。そのため、免疫染色に必要な一次抗体の種類が少なく、生化学試薬の購入費が低くなった。しかし令和4年度から、タイトジャンクション、アドへレンスジャンクション、接着斑などの観察を予定しており、多くの種類の一次抗体が必要となる。またアクチン骨格に及ぼされた影響を探るためのメカニズム探索のためにも、シグナル伝達経路の活性化を検証するためのリン酸化抗体などが必要となる。これら令和4年に必要となる生化学試薬の購入費に充てるよう計画している。
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