研究課題/領域番号 |
21K15098
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柴田 峻 東北大学, 医学系研究科, 助教 (40885670)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | TS細胞 / ES細胞 / 子宮内膜 / 胎盤発生 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
哺乳類の中でもヒト胚は、着床後、子宮内膜に深く埋没していくユニークな特徴を示す。その間の胚発生過程では、母体との複雑かつ秩序立った相互作用が起こると考えられているが、その大部分は明らかではない。 また、その分子機構の破綻が原因で、着床不全や流産を引き起こすと推測されるが、その病態の理解や治療法の開発も遅れている。その要因として、ヒト初期胚を用いる研究には倫理的な制約があるとともに、代替となる適切な研究モデルの欠如が挙げられる。最近、本研究室では世界で初めてヒト栄養膜幹(TS)細胞を樹立することに成功した。 本研究では、胎児・母体双方の細胞について、細胞数や形態、時空間座標をヒト胚発生に即して培養し、段階的に混合しながら三次元培養を行い、胚-母体オルガノイドを創出する。オルガノイドモデルを創出するにあたり、胎児・母体側のモデル確立を行った。胚モデルについては、先行研究に基づきナイーブ型ヒトES細胞を用いて胚盤胞様構造(ブラストイド)の作製を行った。また、母体側のモデルとして、ヒト子宮内膜上皮オルガノイドおよびヒト子宮内膜間質細胞、ヒト臍帯動脈内皮細胞(HUVEC)を混合し、三次元培養を行うことで、空間的配置や構成細胞が生体子宮組織と類似するオルガノイドの作製に成功した。さらに、これらの胎児、母体双方のモデルの共培養を三次元下で行うことで、着床の接着の瞬間を可視化したオルガノイドモデルの作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)胚モデルの作製:着床前に相当するナイーブ型ヒトES細胞を用いて安定的に胚盤胞様構造の作製が可能となった。また、培養中も細胞が識別できるような蛍光タンパク質を恒常的に発現する細胞株を樹立し、蛍光による追跡が可能となった。 (2)子宮内膜モデルの作製:これまでに複数ドナー由来の子宮内膜上皮オルガノイドの樹立と間質細胞の単離に成功している。これらの細胞にHUVECを混合し、三次元培養を行った。免疫染色によりマーカーの発現を確認した後、RNA-seqおよびsnRNA-seqを行った。その結果、子宮内膜モデルは、ホルモン応答性を保有しており、空間的配置と構成細胞が生体子宮内膜組織と類似していることがわかった。また、ELISAにより着床期特異的分泌タンパク質であるglycodelin量を定量したところ、従来の子宮内膜オルガノイドと比して、本モデルは、その分泌量が高く、成熟度の高さが示唆された。さらに、子宮内膜モデル内には、管腔構造を有する血管網が形成され、子宮内膜オルガノイドの血管化に成功した。 (3)胚モデルおよび子宮内膜モデルの共培養:上記の胚盤胞様構造と子宮内膜モデルの共培養を行った。胚盤胞様構造は子宮内膜モデルに接着することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、胚モデルおよび子宮内膜モデルの共培養条件を改良し、胚側の発生が進行する培養条件を検討する。現在までに、胚盤胞様構造の子宮内膜への接着と上皮細胞バリアの破壊まで確認できているが、その後の胎盤細胞の分化や浸潤などを確認できるモデルへの改良を検討する。また、胚体系譜の分化に関してもマーカーの発現や形態的な類似度の評価を行う。共培養条件の検討の際は、ヒト子宮内膜の着床の窓を模した処理条件やその阻害等を行い、子宮内膜の胚受容能を機能的に評価する試験系を確立する。適切な培養条件を確立後、シングルセル解析によりモデル内細胞集団のプロファイルを行い、ヒト胚盤胞や子宮内膜組織および妊娠初期組織のデータと重ね合わせることでin vivo模倣能を確認する。さらに転写プロファイルを基に受容体-リガンド相互作用の予測を行い、着床や胚発生に重要な胚-母体間シグナル伝達経路を同定し、モデルを用いて経時的な解析を行う。
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