研究実績の概要 |
本研究課題は、申請者らが行ってきた個体丸ごとの単一細胞トランスクリプトームデータを利用することにより、ホヤ幼生の神経系に存在する神経細胞のうち、尾部に存在する双極型感覚神経細胞(BTNs)の分化機構を解明することを目指している。 胚発生過程を通した単一細胞トランスクリプトーム解析のデータから各神経細胞の分化過程における遺伝子発現の変遷を示した細胞系統樹の作成を進めた。そして、細胞系統樹をもとに、BTNsの最終分化のポイントで発現し、それ以降も発現が維持される転写因子・シグナル分子を検索し、13個の転写因子・シグナル分子が最終分化後のBTNsで発現し続けることを明らかにした。これらの転写因子の中には、既にBTNsの分化に重要な働きをすることが知られているNeurogenin, POU IVなどが含まれていた。同定した13個の転写因子・シグナル分子について、in situ ハイブリダイゼーションやレポーター遺伝子のラベリングを行い、全てBTNsに発現していることを確認した。 同定した13個の転写因子・シグナル分子について機能解析を進めたところ、いくつかの転写因子の機能阻害胚では、BTNsの分化は阻害されないが、BTNsの形態維持や移動に異常のある表現型を示すものがあった。つまり、最終分化後にBTNsの双極に伸びた軸索の形成・維持を行う転写因子やBTNsの移動を制御する転写因子を同定することに成功した。これらの結果から、BTNsの初期分化から最終分化、そしてBTNsの位置する場所まで移動し、ターゲットとなる細胞に対して軸索を伸ばすところまでの一連の分化機構を制御する転写因子ネットワークを明らかにすることに成功した。
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