研究課題/領域番号 |
21K15108
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
坂下 陽彦 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60893873)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 生殖系列 / 精子形成 / エピゲノム / エンハンサー / 内在性レトロウイルス / KRAB-ZFP |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、哺乳動物の精子形成過程における内在性レトロウイルス (ERVs) のエンハンサー活性を制御する分子機構を明らかにすることである。ERVsが減数分裂特異的にエンハンサー機能を発揮する機序として精子形成のマスター転写因子であるA-MYBが関与することが想定されるが、この詳細な作用機序は全く明らかにされていない。まず初めに、A-MYBがほとんど発現していないES細胞において単独発現誘導したところ、ERVエンハンサーの活性化および近傍遺伝子の発現上昇は見られなかった。これにより、A-MYBはERVエンハンサーの構築に必須であるものの、他の相互作用因子との共役が重要であることが想定された。そこで、減数分裂期においてA-MYBと共役し、ERVエンハンサーの活性化を担うクロマチン因子の同定を行うため、独自に作製したA-MYB C末端を認識するモノクローナル抗体を用いてマウス精巣の免疫沈降後質量分析を実施した。その結果、多くの転写因子ならびにクロマチン結合因子がA-MYBと相互作用することが明らかになった。さらに各組織におけるA-MYB相互作用因子の発現解析結果から、大部分が精巣特異的な発現を示すことが明らかになった。次いで、減数分裂期以前の精原細胞においてERVエンハンサーの抑制機構を担う分子として、ERVエンハンサー配列へ高い結合親和性をもつ新規KRAB-Zincフィンガー (KZFP) に着目した。本KZFPの機能を明らかにするため、生殖系列特異的に恒常的な発現が誘導されるトランスジェニックマウスを作製し、ERVエンハンサーの機能阻害が生じるかどうかの検証を行ったところ、予想に反して本KZFPの過剰発現はERVエンハンサーの活性に全く影響を与えなかった。このことは、精原細胞期におけるERVエンハンサーの抑制には別のKZFPが機能していることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの研究によって、精子形成においてA-MYBと共役してゲノム広範囲なクロマチン制御を担う候補因子の網羅的同定に成功した。A-MYB C末端領域の異なる抗原決定基を認識する複数のモノクローナル抗体を独自に作製し、タンパク質間相互作用の同定といった生化学的解析を可能にした。現在、免疫沈降後質量分析により明らかにしたA-MYBと高い親和性で相互作用し、精子形成特異的な発現を示す機能未知タンパク質についてノックアウトマウスを作成し、その機能解析を進めている。また、精原細胞期におけるERVエンハンサーの抑制には、配列特異的にERVsに結合するKZFPsとヘテロクロマチン化を誘導するヒストンメチル化酵素群の関与が想定される。従って、選択的阻害剤添加やRNAi誘導によるこれらの機能阻害実験を、精子幹細胞ならびに胚性幹細胞を用いて現在行っている。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により明らかになったA-MYB相互作用因子の機能についてノックアウトマウスを用いて検証していく。さらに、ES細胞においてA-MYBを単独で発現させた場合には、ERVエンハンサーと近傍遺伝子の発現惹起は誘導されなかったが、本相互作用因子の発現をES細胞へ追加導入することでERVエンハンサーの機能が十分に発揮されるかどうかの評価も行う。また、ERVエンハンサーの抑制機構については、上記の機能阻害実験によりKZFPとヘテロクロマチン因子の機能を欠失させた後、ERV領域とその近傍におけるクロマチン構造変化ならびに遺伝子発現変化をChIP-seq法やRNA-seq法を用いて解析する。これにより、生殖系列特異的なERVエンハンサー制御に関わる主要因子の機能とクロマチン動態を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度では当初計画していた次世代シークエンス解析を行わなかったため、次年度使用額が生じた。研究の遂行によりChIP-seqやRNA-seqに供試する十分なサンプルが準備出来たため、当該資金は来年度の解析に使用する。
|