研究課題
申請者はこれまでに細胞膜のリン脂質の一つが上皮細胞らしさの決定、維持に関与することを明らかにしてきた。この過程で、細胞膜リン脂質が上皮細胞以外の細胞においても細胞の個性や運命の決定に関与する可能性を想定した。そこで、造血幹細胞からのB細胞の発生・分化において細胞膜リン脂質がどのような役割を果たすのかを明らかにすることを本研究の目的とした。昨年度までの結果により、細胞膜リン脂質を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリー法による細胞膜リン脂質量の測定方法を確立した。その技術を用い、細胞膜リン脂質分解酵素、および合成酵素の発現により、人工白血球幹細胞において細胞膜リン脂質量を変化させることを確認できた。また、細胞膜リン脂質分解酵素の発現による細胞膜リン脂質量の減少が、人工白血球幹細胞の幹細胞性を失わせることを示唆してきた。最終年度では、細胞膜リン脂質分解酵素、および合成酵素を発現させた人工白血球幹細胞をB細胞に分化誘導させた際の変化を検討した。その結果、細胞膜リン脂質の量を変化させた細胞はB細胞への分化がコントロールと比べて阻害されることが明らかとなった。さらに詳細な解析により、B細胞膜リン脂質量を変化させた人工白血球幹細胞は、B細胞への分化誘導を行ったにもかかわらず、ミエロイド系の細胞への分化が誘導されることが明らかとなった。以上の結果より、B細胞の発生、分化において、細胞膜リン脂質の量が適切なレベルに保たれることが重要である可能性が考えられた。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 13 ページ: -
10.1038/s41467-022-30061-9