マウス雄性生殖細胞は、細胞分裂を停止(G1アレスト)しエピゲノムリプログラミングを行う。これまで、雄性生殖細胞特異的RNA結合タンパク質(RBP)であるNANOS2と、同じく生殖細胞特異的RBPであるDND1が、細胞分裂制御及びリプログラミングへの移行に必須であることが知られている。また、NANOS2とDND1を体細胞で強制発現すると、両タンパク質が複合体を形成し、細胞分裂を停止することを見出した。また、NANOS2-DND1強制発現体細胞では、mTORC1活性が抑制されることが分かった。mTORC1活性の抑制はG1アレストを誘導する。雄性生殖細胞でも、NANOS2がmTORC1活性を抑制することが分かった。このことから、NANOS2によるmTORC1抑制が雄性生殖細胞の分裂停止を誘導すると考えられた。mTORC1の活性は、主にTSC複合体とGATOR1複合体によって制御される。体細胞NANOS2-DND1機能再構成系を用いた検証により、NANOS2-DND1はTSC複合体を介してmTORC1活性を抑制することが分かった。またTSCとGATOR1双方の抑制で、mTORC1活性がより強力に誘導された。次に、雄性生殖細胞のmTORC1強制活性化を試みた。TSC及びGATOR1の構成因子の条件付きノックアウトES細胞株を用いたキメラマウス解析で、雄性生殖細胞におけるmTORC1の強制活性化に成功したが、細胞分裂の脱抑制はみられなかった。このことは、NANOS2-DND1はmTORC1だけでなくその他の制御系も通じて分裂を制御していることが示唆される。また、mTORC1活性化雄性生殖細胞では正常な雄性分化が観察された。従って、mTORC1の抑制はNANOS2-DND1による機能の一端ではあるが、より様々な制御を通じて細胞分裂及びリプログラミングの誘導を行うことが示唆された。
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