研究課題
虫こぶ形成昆虫とその宿主植物の飼育は困難であったが、富山大学の土田博士らによりマダラケシツブゾウムシとアメリカネナシカズラの飼育系が確立された。本研究ではこのマダラケシツブゾウムシーアメリカネナシカズラの飼育系を用いて虫こぶ形成の分子機構を明らかにすることを目指す。昨年度までに、発達段階ごとのアメリカネナシカズラ側でのRNA-seq解析を行い、花成関連遺伝子群の発現上昇ならびにいくつかの特定の植物ホルモンに対するシグナル伝達系の発現上昇を捉えることができた。本年度はそれらのうちのいくつかの遺伝子の発現パターンを明らかにするためin situ hybridizationを行った。また、昨年度までにシロイヌナズナ過剰発現体を宿主としたアメリカネナシカズラ虫こぶの誘導に成功していたため、本年度はその個体を使ってアメリカネナシカズラ虫こぶにおけるシロイヌナズナ形質転換体由来の蛍光タンパク質融合候補遺伝子の検出を行った。形質転換体を宿主植物とし、それに寄生させたアメリカネナシカズラにおいて、形質転換したmRNAもしくはタンパク質のどちらが検出されるか、qRT-PCRおよびWestern blottingにより検証した。その結果、形質転換した遺伝子はmRNAでは移動しておらずタンパク質で移動していることが明らかとなった。また、シロイヌナズナ形質転換体に寄生させたアメリカネナシカズラにおける虫こぶ発達の様子を詳細に観察することで、形質転換した遺伝子と虫こぶ発達の関係について議論することを試みた。
2: おおむね順調に進展している
虫こぶ発達に関わる遺伝子発現ネットワークの一部を明らかにしつつある。本年度はin situ hybridization法によりいくつかの花成に関わる候補遺伝子の虫こぶ内での発現パターンを明らかにすることができ、そのパターンが通常の植物発達とは異なることが明らかとなった。既存の遺伝子群が新規の発現パターンを獲得することによって、虫こぶという新たな器官の作出に貢献していると考えられる。また、形質転換したシロイヌナズナ由来の蛍光タンパク質融合候補遺伝子を検出することに成功し、宿主植物を介して目的遺伝子がcuscuta内に導入できていることを確認した。さらに候補遺伝子によって虫こぶ形成の頻度に差があることも明らかとなった。現在は、候補遺伝子の導入量と虫こぶ形成頻度との相関を詳細に調べている。また、派生的な結果として野生イネ花成時に形成される芒の伸長を制御する遺伝子を突き止め、国際論文として発表した。
次年度は宿主植物を介した候補遺伝子のRNAiに注力し、過剰発現体を用いた結果と合わせて、虫こぶ形成に対する候補遺伝子の作用機序を明らかにする。また計画最終年度であるため、これまでの結果を論文にまとめ、国際誌に発表する。
令和3年の4月から9月まで半年間育児休業を取得し、令和3年度の研究計画で計上した研究費の使用を翌年度以降に繰り越すこととなった。令和5年度分も同様に計画していた分を繰越し、分子生物学実験に使用する試薬代、RA雇用費、出張費、学会参加費、論文発表費に使用する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 120 ページ: e2207105120
10.1073/pnas.2207105120
植物科学の最前線
巻: 14 ページ: 50~64
10.24480/bsj-review.14b2.00243