研究課題/領域番号 |
21K15125
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
加藤 大貴 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 助教 (30846994)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ゼニゴケ / ホルモン / シグナル伝達 / 進化 |
研究実績の概要 |
植物ホルモンのオーキシンとその下流で機能するWIPは陸上植物の発生において多面的な役割を果たすが、多様な機能を果たすための分子メカニズムは未だ明らかになっていない。本研究ではゼニゴケをモデルに(1)WIPの標的遺伝子の網羅的探索と結合配列の推定、(2)生化学的・遺伝学的アプローチによるWIPと相互作用するタンパク質の探索、(3)組織特異的な複合体形成による下流応答制御の検証を計画しており、本年度は(1)、(2)について以下のような成果を得た。 (1)WIPが直接制御する遺伝子を網羅的に探索するためクロマチン免疫沈降シーケンス解析(ChIP-seq)を計画している。実験に必要な植物材料としてエストロゲン依存的にタグ(GFP)を融合したWIPタンパク質を発現する株の作成を試みたが、表現型を示す株が得られなかった。融合したタグがWIPの機能を阻害している可能性を考え、現在GFPよりも分子量が小さく機能阻害を起こしにくいと予想されるFLAGタグを付加したものを作成中である。また他の転写因子を用いた実験ではあるが、GFP融合タンパク質発現ゼニゴケを用いたChIP実験系の立ち上げに成功した。 (2)WIPの相互作用因子を探索するため、エストロゲン依存的にタグなしのWIPを発現する株(誘導により枯死する)を背景とした抑圧変異体スクリーニングを計画していた。変異処理を行う胞子を取得するため、野生型との掛け合わせを行ってF1胞子を取得した。F1胞子の中から親株と同様にエストロゲン処理により枯死する雌雄株を選抜し、掛け合わせを行なった。しかしF2胞子の形成率が悪く、また得られたF2胞子の発芽率も非常に低く、純遺伝学的スクリーニングを行うのには不十分であった。導入コンストラクトが何らかの理由で胞子形成を阻害していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
取り組んだ実験について想定外の結果が出たため実験方針の変更を要したこと、また研究代表者の神戸大学での任期切れに伴い、就職活動や機関移動のため研究に取り組む時間が減少したことなどが原因で計画に遅れが生じている。実験計画の具体的な遅れについて(1)WIPの標的遺伝子の網羅的探索、(2)WIPの相互作用因子の探索、(3)組織特異的な複合体形成の検証に分けて以下に詳細を記述する。 (1)ChIP-seq実験に必要な植物材料としてエストロゲン依存的にGFP融合WIPタンパク質を発現する株の作成を試みたが、表現型を示す株が得られなかった。タグ融合による機能阻害を考え、GFPよりも分子量が小さいFLAGタグを利用する方法に転換した。現在 DNAコンストラクトの作成中である。 (2)薬剤依存的なWIP過剰発現株を背景とした抑圧変異体スクリーニングのため、掛け合わせによる胞子の取得を試みたが、胞子の形成率や発芽率が想定よりかなり低く、変異体スクリーニングに用いるには不十分であったため、遺伝学的アプローチによる相互作用因子の同定を断念した。 (3)相互作用因子の同定と機能解析は(1)、(2)の成果を前提としている。上記のような実験計画の遅延・中止が生じたことから本年度は取り組めていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の計画は大きく(1)WIPの標的遺伝子の網羅的探索、(2)WIPの相互作用因子の探索、(3)組織特異的な複合体形成の検証に分けられる。(3)は(1)、(2)の成果を前提としており、次年度は主に(1)、(2)について以下のような方策で研究を遂行する。 (1)エストロゲン依存的にFALGタグ融合WIPを発現する株(XVE>>WIP-FLAG)を作成し、ChIP-seq解析によりWIPの標的遺伝子・結合配列の同定を行う。ChIP-seq解析がうまくいかない場合のバックアップとして、過去に解析した変異体・過剰発現株のRNA-seqデータから標的遺伝子候補を選抜し、プロモーター領域に頻出するDNA配列の同定を試みる。 (2)(1)で作成するXVE>>WIP-FLAG株を用いて免疫沈降-質量分析法方による相互作用同定を試みる。当初の計画に含まれていた酵母ツーハイブリッド法(Y2H)の受託解析については金銭的負担が大きいことに加え、研究代表者の所属移動に伴う機器の追加購入の必要性が生じたため取りやめる。その代わり、ゼニゴケの共発現データベースからWIPと共発現する転写因子を探索し、(1)で同定したWIP結合配列と合わせて相互作用因子候補を同定する。得られた候補因子については、Y2H法やBimolecular Fluorescence Complementation (BiFC)法によりWIPとのタンパク質相互作用の検証を行う。 (3)上記の計画によりWIPの標的遺伝子、結合配列、相互作用因子が同定されていれば、相互作用因子の発現組織解析や機能欠損変異体の作成に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の使用額が計画よりも少なかった理由として最も大きかったのは、想定外の研究結果が出たことで研究計画の遅延と変更が生じたために、次世代シーケンサー及び酵母ツーハイブリッドスクリーニングの受託解析を行わなかったことである。また新型コロナウイルスの感染が予想に反して収束せず、参加する学会が全てオンライン開催だったことから旅費の使用が生じなかった。 次年度では変更した研究計画に沿って、各種消耗品の購入、質量分析や次世代シーケンサーなどの受託解析、共通機器の利用料金として使用する。また国内外研究者からフィードバックを得るための学会参加費、国際誌における論文発表のための投稿料や英文校閲の謝金として使用する。加えて、本年度末に研究代表者が所属機関を移動したことにより、利用できなくなった実験機器の購入にも使用する。
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