研究課題/領域番号 |
21K15129
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
金 恩哲 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, 助教 (30836359)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光合成 / 集光 / 光防御 / 光化学系II / 配列形態 |
研究実績の概要 |
緑色植物では、光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)が、それぞれ光捕集複合体(LHCIとLHCII)とPSI-LHCIとPSII-LHCIIを形成している。これらのPSI-LHCIとPSII-LHCIIは、PSI-PSIやPSII-PSIIなどのメガコンプレックスを形成し、その光捕集特性を調節している。Arabidopsis thalianaはPSII-PSIIとPSI-PSIIの両方のメガコンプレックスを形成し、SpinachはPSII-PSIIメガコンプレックスを優先的に形成するが、緑藻類Chlamydomonas reinhardtiiは安定な光化学系メガコンプレックスを形成しない。一方、A. thalianaのPSI-PSIメガコンプレックスは、洗剤に対して比較的脆弱である。我々は、遅延蛍光スペクトルを解析することにより、Oryza sativa由来のPSI-PSIメガコンプレックスがスピルオーバーする能力を持つことを証明した。さらに、蛍光寿命解析の結果、O. sativaではA. thalianaよりもPSIへの遅いエネルギー移動が支配的であることが明らかになった。この結果は、O. sativaのPSI-PSIメガコンプレックスはアンテナを介するタイプであり、A. thalianaのPSI-PSIメガコンプレックスはPSIとPSIIコアを介するタイプであることを示唆しています。この研究により、緑色植物における光化学系メガコンプレックスの多様性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究計画であった、Arabidopsis thaliana npq4、stn7変異体(光防御に関わるPsbSとSTN7を持っていない変異株)のチラコイド膜を精製することを完了した。各変異体の種子を入手・培養し、プライマーPCRにより遺伝子の変異を検証した。また精製されたチラコイド膜を可用化し、Sucrose density gradient(SDG)-超遠心分離も遂行した。この結果、各変異体における光化学系2の配列形態の差異を解析することができた。予定していたnpq1変異体(光防御に関わるビオラキサンティン脱エポキシダーゼを持たない変異株)は培養条件の発見に時間がかかり、チラコイド膜の精製とSDG-超遠心法による解析は2年目に行う予定である。しかし、2年目の計画だったinvitro de-epoxidation methodの事前実験を先に行い、全体の実験計画には問題がなく順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
精製されたチラコイド膜と半結晶性アレイ形態の光化学系II超複合体に酸性化、カロテノイド種の変換、リン酸化を誘導し、光化学系II超複合体の配列形態に与える影響 と光化学系II超複合体間結合の強さを分析する。プロトン化の影響を分析するためには酸性バッファーを用いて、PSII超複合体のプロトン化を誘導する。カロテノイド種の影響を分析するためにはn vitro de-epoxidation methodを用いて、カロテノイド種の変換を誘導する。リン酸化の影響を分析するためにはin vitro phosphorylation methodを用いて、リン酸化を誘導する。さらに、熱力学的解離速度論分析法を用いてPSII超複合体間の結合の強さを分析する。この分析結果を1年目の変異株分析結果と共に解析し光化学系II超複合体の配列形態に影響を与える因子を究明する。これにより調節因子が直接的に光化学系II超複合体の配 列形態を変容するメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究結果を発表する予定の学会やワークショップが延期され、半導体需給問題によりパワーサプライや分析用コンピュータ等の機器納期が遅れたため、一部経費が次年度使用額として計画されました。来年度分として請求した助成金は、本計画通りの分析用コンピュータ購入と実験補助者に代わる自動化資料分析システムに使用する計画です。
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