珪藻は人類の加工技術を超えた微細で精巧な珪酸質の被殻を形成する。珪藻の被殻は細胞内の特殊な小胞内に珪酸が沈着することで形成される。さらに、細胞骨格がその小胞の形を制御することによって被殻形態が決定される。しかし、実際にどの様なタンパク質が関与しているかは明らかになっていない。本研究では、有孔虫に共生する珪藻という、珪酸質の被殻形成をOFFからONに切り替えることが可能な画期的な系を用い、遺伝子発現の経時変化を単細胞RNA-seqにより解析することを目指した。 2023年3月に沖縄本島にてドセイノスナ(Amphistegina lobifera)を採集し、有孔虫の炭酸カルシウムの殻をカミソリまたはネジの先端で破壊したところ、有孔虫細胞内から共生珪藻を取り出すことに成功した。取り出した共生珪藻は浸透圧ショックによりその多くが死滅してしまったが、粗培養株の確立に成功している。また、ドセイノスナは細胞サイズが大きく採集しやすいが、炭酸カルシウムの殻が非常に厚く、共生珪藻を取り出す作業が難しいという難点があった。そこで、比較的細胞サイズが小さく、殻が薄い底生性有孔虫のPararotalia nipponicaをターゲットに、2024年2月に下田臨海実験センターにおいて採集を行った。1個体しかターゲットの有孔虫を採集することができなかったが、カミソリを使って共生珪藻をとりだし、培養を行ったところ、こちらも粗培養の段階ではあるが、培養に成功した。両有孔虫から摘出した共生珪藻は非常に増殖が遅いため、未だクローン培養株の確立はできていないが、培養株ができたら種同定および単細胞RNA-seqのリファレンス配列を取得する。
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