小腸の陰窩底部に位置する幹細胞が傷害を受け死滅すると、腸幹細胞付近に位置する分化細胞は脱分化を引き起こし、幹細胞様の性質を獲得して上皮再生に寄与することが知られている。この脱分化機構の破綻はがんや炎症といった疾病につながるため、脱分化制御の機構を解明することは重要であるが、腸の分化細胞がどのように脱分化を引き起こすのか、その機序はほとんど不明である。そこで本研究では、腸幹細胞の3次元培養により生体構造を模した「腸オルガノイド」を用いて成熟分化細胞であるパネート細胞の脱分化の分子機構を明らかにすることを目的とした。 本研究ではまず腸幹細胞とパネート細胞にそれぞれ緑色蛍光と赤色蛍光を発する腸オルガノイドの作製を目指した。腸幹細胞が緑色蛍光を発する(Lgr5-GFP)マウスから腸オルガノイドを作製し、幹細胞がGFP蛍光を発することを確認した。また、このGFP蛍光はオルガノイドを継代するごとに退色することを明らかにした。次にパネート細胞のマーカータンパク質であるLysozymeの下流に赤色蛍光であるRFPをノックインするためのコンストラクトを作製し、Cas9タンパク質とガイドRNAとともに腸オルガノイドへの導入を試みた。しかし、RFP蛍光を呈する腸オルガノイドは得られなかった。 次に、パネート細胞の脱分化現象をリアルタイム観察するために、フェムト秒レーザーを用いて腸幹細胞を特異的に死滅させる条件を検討した。フェムト秒レーザーのレーザーパワーと細胞へ当てる時間を最適化し、リアルタイムで細胞の挙動を観察できる系を構築できた。
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