研究課題/領域番号 |
21K15134
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
秋田 佳恵 日本女子大学, 理学部, 助教 (80737122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 葉表皮細胞 / 細胞形態形成 / 顕微鏡画像解析 / 広域電子顕微鏡 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,存在が示唆されながらも観察が不可能であった葉表皮細胞の形態形成に関与する物質輸送について,最新の可視化技術により存在と局在を調査することで,表皮細胞の面積拡大と形態形成の機構を解明し,細胞形状を複雑化させる意義に迫ることである. この目的を達成するため,初年度は電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いることにより,広域かつ高倍で葉表皮組織を撮像した.植物細胞は大きいため,従来は1細胞であっても微細構造の解析が可能な倍率での撮像は困難であったが,近年の固定法改良および技術進歩により,本研究では発芽1日の子葉面積において約8割に相当する領域の細胞を電子顕微鏡画像として取得することができた.広域の電子顕微鏡画像が得られれば,微細構造について,複数の細胞を対象とした統計的解析や,隣接細胞間での細胞内局在の比較解析などを行うことができるため,様々な材料への応用が期待される. 本研究では,発芽1日から3日にかけてリピッドボディが急激に減少し,液胞の細胞占有率が増加することを見出した.この現象を定量的に示すため,自動および手動による細胞内構造の領域分割を試みた.取得した表皮細胞の画像に対しては手動による分割を進める予定であるが,構造の判別では自動の方法も有効であることが確認されたため,引き続き検討する.また,特に発芽1日の表皮細胞では細胞内構造が密に存在しており,構造ごとに細胞内分布に偏りが見られた.今後,領域分割後に画像解析を行うことにより,細胞形状と細胞内構造について時間経過に伴う変化を明らかにしたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は野生型のシロイヌナズナについて発芽1, 2, 3日の子葉を固定した.観察には倍率の変換に強い電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて広範囲撮影を行った.これにより発芽1日の小さい子葉では,葉全体の約8割の面積に相当する領域の細胞を,微細構造の解析に耐えうる高倍で画像取得することができた.水平方向に切削した場合でも,表皮組織と葉肉組織の細胞が同一切片上で観察されるため,細胞形状および細胞内構造や細胞間隙を指標として区別した.当初は,本葉で多く観察された分泌経路に関連する構造であるゴルジ体,多胞体,パラミュラルボディーの分布を解析する予定であったが,今回供した試料ではほとんど観察されなかった.その一方,リピッドボディが非常に多く存在していた.特に発芽1日の表皮細胞では,切片上で細胞面積のおよそ半分を占めていた.そこで表皮細胞における各構造の細胞占有率を定量的に計測するため,領域分割を自動および手動の二通りの方法で試みた.前者はリピッドボディや液胞について高い精度で判別できたが,構造の輪郭が複雑な場合や,隣り合う構造の隙間がほとんどない場合に,誤った分割が見られたため,本研究においては手動で領域分割を行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の観察から,リピッドボディは発芽1日から発芽3日にかけて急激に減少し,液胞は同時期に面積占有率が増加することが見出された.この現象を定量的に解析するために,各細胞内構造について領域分割を行う.領域分割の方法は「現在までの進捗情報」に記した通り,本研究に関しては手動を予定している.ただし,自動の領域分割は現時点でも構造の判別については精度が高く,専門家の知識を必要とする電子顕微鏡画像に応用できれば強力な解析技術となるため,引き続き検討を行う予定である.また,発芽1日において構造ごとに細胞内分布の偏りが見受けられたため,領域分割結果に基づいた画像解析を行い,時間経過による細胞形状と細胞内構造の変化について関連を調べる.さらに,細胞内分布が特徴的な構造については,蛍光タンパク質または蛍光試薬により可視化し,ライブイメージングを試みる.
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