研究課題/領域番号 |
21K15138
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
善方 文太郎 自治医科大学, 医学部, 講師 (90758541)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経筋接合部 / アセチルコリン受容体 / ゼブラフィッシュ / 筋収縮 / 運動機能 / 骨格筋 / イオンチャネル / カルシウム透過性 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の運動機能の制御においては運動神経と骨格筋のシナプス部である神経筋接合部が極めて重要な機能を担う。これまでにゼブラフィッシュを用いた研究から、遅筋線維が従来知られていたものとは異なるセブユニット構成のアセチルコリン受容体(AChR)を発現することが明らかとなった。この新規型AChRの機能には未解明な点が多く残されている。本研究ではこの新規AChRの生理学的機能を明らかにすることを目的としている。 昨年度までにまず発現系を用いた実験により、新規型AChRの性質を解析した。新規型AChRがイオンチャネル型受容体であることからイオン透過性に着目し、実験を行った。イオン透過路のアミノ酸配列から新規型と従来型のAChRはカルシウム透過性に違いがあると考え解析した結果、従来型がほとんどカルシウムを透過しないのに対し、新規型AChRが比較的高いカルシウム透過性を示すことが示唆された。また、新規型AChRが示すこの性質はイオン透過路のアミノ酸配列を従来型に変えることで喪失されることも明らかとなった。新規型AChRがカルシウム透過性を示すことを示したのは本研究の結果が初めてであり、筋収縮制御機構の理解を深めるうえで重要な結果と考えられる。 この結果を踏まえ、新規型AChRのカルシウム透過性が生理学的にどのような意義をもつのかを調べるため、新規型AChRのカルシウム透過性を喪失させた遺伝子改変ゼブラフィッシュを作製し、骨格筋の活動および遊泳への影響を解析することとした。筋の活動を評価する目的でカルシウム応答性タンパク(GCaMP)を筋に発現する遺伝子改変系統の作製に成功した。また、新規型AChRのカルシウム透過性を喪失した遺伝子改変系統の作出にも成功した。今後この系統を用いて運動機能への影響を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のとおり、発現系を用いた実験から新規型AChRのカルシウム透過性を示唆する結果が得られた。また、新規型AChRのイオン透過路のアミノ酸を改変することによってカルシウム透過性を喪失させられることも明らかとなった。当初の仮説の通り、従来型と新規型AChRではカルシウム透過性が大きく異なることが示唆された。 次にin vivoの系を用いた実験を行うことで新規型AChRが示すカルシウム透過性の生理学的意義を明らかにするため、必要となる遺伝子改変ゼブラフィッシュを作製した。予定通り、骨格筋にカルシウムセンサータンパクを発現する遺伝子改変系統を作出することができた。現在安定して継代を行っている。 これに加え、新規型AChRのカルシウム透過性を喪失させた遺伝子改変系統の作製にも成功した。ただし、後者の系統では改変型AChRの発現量が多すぎるためか性成熟前に死亡する個体が多いことがわかった。そのため系統維持が困難であることから、平行して発現領域を遅筋のみに絞った系統を作製中である。
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今後の研究の推進方策 |
作成した遺伝子改変系統を用いて運動機能解析を行う。カルシウム透過性を喪失させたゼブラフィッシュ系統において遊泳機能にどのような影響が現れるかを解析する。ハイスピードカメラで逃避行動や自発的運動を記録し、遊泳速度、遊泳距離、遊泳時の身体の屈曲角度への影響を解析する予定である。 さらに、カルシウム透過性を喪失した系統と、骨格筋にカルシウムセンサータンパクを発現する系統を掛け合わせることで骨格筋の活動への影響を明らかにする。コンフォーカル顕微鏡下で活動時の筋のカルシウム応答を解析することで明らかにする。 これらに加え、さらに細胞レベルでの筋の活動への影響を調べるためにパッチクランプ法による解析を行う予定である。改変型AChRを発現する筋細胞の活動電位波形を野生型の個体と比較することで、新規型AChRを介したカルシウム流入が筋の活動にどのような影響をもたらすのかを解析する。 カルシウム透過性を喪失した改変型AChRを発現するゼブラフィッシュ系統はほぼ全個体が性成熟前に死亡することがわかった。これは改変型AChRの発現量が多すぎるために問題が生じている可能性が考えられる。そこで、発現に用いるプロモーターを変更し、遅筋線維のみに改変型AChRを発現する系統を現在作製している。こちらが樹立された場合、こちらの系統で以降の実験を進める。系統が樹立できなかった場合には改変型AChRをモザイク状に発現させ、発現量を抑えた状態のF0個体を用いて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変動物系統の作製が予定よりも早く進んだため、運動解析に必要となる顕微鏡およびハイスピードカメラの購入を前倒しすることとした。
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